第39話 俺達が和解できるはずがない……
……俺は自分が正しいと思っている人が苦手だ。
そいつは自分の考えだけでしか物事を言わない。
だから、それがもし相手を傷つけているとしても、きっと気づかない。
目の前の幼馴染はきっとそのタイプの人間だ。
その証拠に、彼女との再会は罵声から始まった。
俺が義妹の事を助けた時、それを目撃した幼馴染は暴力を振るった俺を最低だと罵った。
それが原因で俺は幼馴染に関わるのをやめた……はずなのに、なんの縁なのかこうやって彼女は俺の隣にいる。
頑固なのか、馬鹿なのかわからないけど、俺に絡んできた大多数の不良達から逃げずに立ち向かい、自分の正義を貫いた。その上、殴られそうになったのだ。
玄白達のおかげで事なきを得たがきっと恐ろしかったはずだ。その証拠に、彼女は不良達が去った後に腰を抜かしてしまった。
だが、それでも気丈に笑みを作り、自分の過去を話した。
だからと言って、彼女の無謀な行いが褒められた事ではない。下手をしたら殴られていたかもしれないし、それ以上に酷い目に遭わされたかもしれない。
それを考えると、玄白達が通りがかったのは幸運だった。
だが、今後彼女の身に火の粉がかかる可能性も大きくなる。だからこそ、俺は彼女に言わなければならない事があった。
「自分や知人に危険が迫っていたら、力が必要な時はある。君が言うような言葉だけで事態が解決しない事もいっぱいあるんだ。」
その言葉に幼馴染は目を見開いて俺を見る。
そしてすぐに俯き、「うん……。」と頷く。
「力のない人間が強い人間に口先だけで立ち向かった所で、すぐに潰されるだけ。それは何ごとにもそうだ。喧嘩も、権力も、小説も同じ……。」
俺が小説の話を口に出すと、彼女は咄嗟に俺の方を見たと思うとすぐに項垂れる。
それもそのはずだ。彼女にとって俺は幼馴染であると同時に憧れの作家である。そして、知らなかったとはいえ、一度は俺の行動を彼女は否定している。
その事は、少なくとも俺と幼馴染の間に溝を作った事は間違いはない。だからこそ、今の今まで俺は彼女を避けてきた。だが、幼馴染という事を話してしまった以上は言わなければならない事があった。
「言葉はいつも無力だ。弱い人間が口先だけで自らの感情をぶつけても、それは他者には届かない。自分に関係のない人間が煩わしい事をほざいているだけにしか受け取らない。」
「そんな事……。」
「ないとは言えないだろ?実際に今日は玄白達に助けられたから事なきをを得たけど、もしあいつらがいなかったら俺は君を守れなかった。それに明日以降も絡まれる危険もある。」
俺が真剣な表情で諭すと、彼女は唇を噛み締める、
彼女の思う正義の否定を俺は今、しているのだ。
「俺の行動が正しかったとは言わない。だけど、時と場合によっては立ち向かう必要な時もあるし、逃げる事が必要な時もある。そんな時に自分が正しいからと言って頭ごなしに立ち向かって否定するべきではないよ。それはただの蛮勇だ。」
「……。」
複雑そうな表情で彼女は悩む。
俺の話で彼女が変わるとは思わないし、変えようとも思わない。
だけど、彼女が今後無茶をして欲しくないから幼馴染として話をする。
「だから力が無いなら立ち向かう前に何が出来るのか考えればいい。それはいずれ自分達を守る強さになるから。俺はそうやって生きてきた。」
俺がそう言うと、彼女は「えっ?」と言って俺の顔を見る。
「知ってると思うけど、俺は昔は弱かった。アスに守らないといけないくらいに……。だけど、父が死んでから自分の守りたいものを知ったし、弱さも知った。だからこそ強くなりたかったし、空手も習った。」
「うん。」
「小説だって同じだよ。自分に合わない意見や心ない意見が飛んでくることもある。中学生のくせに作家を気取るなとか、雑魚作家だとか辛い事をいっぱい言われてきた。アスもコメント見たことがあるだろ?」
「うん……。」
「あれはショックだったし落ち込んだよ。だからその人達に負けないように話を作ったつもりだし、結果も出した。それでも認めてくれない人もたくさんいるだろうけど、俺はそれでも負けないし受け入れていくつもりだ。」
「りっくん。」
彼女は目を真っ赤にしながら俺の話を聞いている。
「だったら、アスも自分が傷つかず、相手も傷つけずに守りたいものの為に何ができるのか考えて欲しい。それが強さになるから……。」
俺は具体性のない理想論を語る。
彼女の言う事は理想でしか無いし、俺がやった事も褒められたことでは無いのはわかっている。だけどなにがその時にできたのかなんてその時にならないとわからない。
だが臨機応変に対応出来る力さえあれば、どんな問題が起きても対応はできるはずだ。
「……分かった。いろいろと考えてみる。」
今にも泣きそうな顔で、幼馴染は俺の話を受け入れる。その顔を見て、俺はある事を思い出す。
「あと、急に髪を切るなんて言ってたけど、あれも暴力の一つだからな?」
「えっ!?」
俺の言葉に幼馴染は泣きそうな顔を一変させ、キョトンとした顔になる。
「えっ?じゃないよ。もしあれで俺が嫌がってたら暴力になるし、同意もなく切ろうとするなよ。あの空間は数の暴力だったし。」
「だって、髪を切ったらカッコよくなるって確信があったから切ってあげたんだよ?現に評判がいいじゃない!!」
「人に目を晒すのが怖かったのに。それに、俺に話掛けるなって言われたし……。」
幼馴染は慌てて言葉を繕う姿が面白くなった俺は大袈裟に被害者ぶって揶揄う。
すると彼女は神妙な面持ちに変わり、「ごめんなさい……。」と謝る。
その表情を見て、俺に芽生えたいたずら心は頂点に達する。
「そんな自分勝手な人は苦手だなぁ〜。嫌いな人種だよ。」
と、わざとらしく話すと、彼女の表情は絶望に変わり、頭を下げる。
その落ち込んだ姿を見て、俺は横に座っている幼馴染の顔の前に拳を近づけると、額に向かって中指を弾く。
その衝撃に幼馴染は、「いったぁ〜!!」と叫んで額を抑えて悶える。
「急に何するの!!」
デコピンで赤くなった額を摩りながら、うらめしそうな顔で幼馴染は俺をみる。
「ははは、これで髪の恨みはチャラだ。」
と言って俺は彼女の頭に手を置く。
俺の行動に驚いた彼女はびくっと肩を揺らすが、「もうっ……。」と言って上気した顔でこちらを睨む。
これで手打ち……と言うには罰が軽いかもしれない。だけど、こいつには幼い頃よく助けられたのだ。だから、また一から友人関係をスタートしていけばいい。
なんせ俺はどんな嫌な言葉も受け入れる男だからな!!
そんな事を思いながら、上目遣いで睨む幼馴染の頭から手を離した俺は一つの懸念を思い出し、その対応策を考えていた。
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