第12話 義妹には兄はもういないはずなのに
翌週、私達は同じ高校に入学した。
その入学式の前に私は再びショックを受ける。
……まさか仮にも兄妹であるモサ男が同じクラスに居るではないか!!
掲示板に張り出されているクラス分けの紙を見て、私は愕然とする。この日ばかりは神様という存在を否定する私も神様を呪った。
講堂に向かう直前、私はモサ男を引っ張って誰もいないところに連れて行く。
「私とあなたは他人なんだから、兄妹の事は秘密にしてよね!!軽々しく話しかけて来ない事!!」
私がモサ男に伝えると彼は「分かった……。」と、困惑した表情で答える。
「ふん!!」
私は素っ気無い態度で講堂の方に彼を置いて行く。
彼は私の背中を追う事はなく、しばらくその場に立ち尽くした。
何一つ文句を言わない彼に私の心は痛んだけど、私は文句を言うしかなかった。文句の一つでも言わなければ、私の精神が持たなかったのも事実だった。
入学式も終わり、私達はそれぞれのクラスに分かれて教室に入る。
クラスでの自己紹介も終わり、やはり話題はモサ男と私の関係についてだった。
他人のフリをする私に合わせる様にモサ男も他人のフリをする。実際に家で顔を合わせる事を極力避けているので、モサ男の事は何も知らないのだから他人には違いないけど。
モサ男はモサ男で後ろの席のイケメン君に話しかけられてオロオロしていて、どこか間抜けで笑えた。
そんなこんなで入学式も終わり、放課後クラスメイトは親睦会を兼ねてカラオケに行く事になった。
モサ男は用事で来れないというが、彼が普段自宅で何をしているかは知らない。
知りたくもないし、またクラスメイトの話題の槍玉に挙げられたくないので心の中で……来んな来んな、早く帰れ!!と悪態をつく。
モサ男が帰ってからの親睦会では出雲さんという子と席が隣になって友達になった。
可愛い子なんだけど、ギャルというイメージが強い子だけど、私の目には高校デビューをしましたよ?と言った強がったイメージの子だった。
他にも美内明日香と言う飛び抜けて可愛い子と冷泉綾乃さんと言ういかにもお嬢様と言った見た目のことも仲良くなった。
楽しかった時間もあっという間に終わり、解散した私達はそれぞれの自宅へと帰る。
だけど、足取りが重い。
今の家に帰るのは正直しんどい。
別に新しいお義母さんが嫌いなわけではない。
最初はどんな人か不安は大きかったけど、お義母さんは私に優しくしてくれたし、モサ男と区別する事なく接してくれた。
むしろ私に甘いくらいだった。
それは本来なら他人である彼女なりの気遣いである事は分かっていた。だからなるべくは笑顔で過ごしたいとは思っている。
だけど、それ以上にモサ男の存在が嫌だった。
別に何かを言われた訳でもなければ、何かされた訳でもない。嫌な理由を一言でいうなら『生理的に無理!!』だった。
女の子には便利な言葉であるのだけど、何もしていないのにそういうのは理不尽だと思う。
ただ大好きだった実の兄と同じ名前の義兄の情けなくだらしの無い姿に、初めて会った日からその時から嫌悪感を覚えた。
だからあの男のいる家にはなるべく帰りたく無い。というか、あの男と一緒にいるのが嫌だった。
ため息をつきながらとぼとぼと家に帰っている私は3人の不良グループに目をつけられている事など、とうの本人は気づきもしなかった。
「君、可愛いね!!ちょっと、俺たちと遊ばない?」
「いえ、あ……。やめてください!!」
突然知らない人に話しかけてこられ、私は困惑する。断ればいいのにそれができないのは、未だに振り切れないのは、引っ込み思案のせいだ。
兄が生きていた頃は兄の後ろに隠れていたら良かったけど、今は自分で対処しなければいけない。
あれから成長して少しはモノが言えるようになったはずなのに、3人に囲まれると恐怖で言葉が出ない。
アイツになら好き放題悪口が言えるに……。
そう思った瞬間、男の1人が私の手を握る。
その瞬間、恐怖と嫌悪感が全身にひた走る。
……助けて、お兄ちゃん!!
目を瞑り、天に祈る思いで兄に助けを求める。
だけど、お兄ちゃんはもう……いない。
私の手を取った男が私を引っ張ろうとしたその時、私の手を引く男の力が突然抜ける。
「やめろよな。」
その声とともに人影が私の前に立ち塞がり、私の手を掴む男の腕を掴む。
「なんだ?てめえ……。」
私の手を離しながら、男が人影に向かって威嚇をしている。
私もその声を聞いて、助けようと不良の前に立ちはだかってくれている男の姿を見る。
背は少し高いくらいで、髪はオールバック。何より睨みをきかせた鋭い目が強く印象に残った。
その姿にどこか既視感があり胸が弾んだけど、それどころじゃなかった。
多勢に無勢、一方的にやられるのは目に見えている。
「ちょっと。あんた危ないわよ、逃げて!!」
私は焦って彼に逃げるように呼びかけるけど、彼は逃げる様子を見せない。
それどころか何故かショックを受けている。
「物陰にでも隠れてな……」
私を横目に、彼は初めて声を出す。
その声に私は少し距離を取る事ができた。
私が離れた事を確認した彼は掴んでいる男の手を離そうとはしない。それどころか、相手を強く睨みつけていた。その視線に逆上した不良達は彼に向かって拳を振り上げる。
「危ない!!」
私が声を上げ、目を閉じた刹那、ガッという音がする。その音の正体を探る為、恐る恐る目を開けた。
そこには額に拳を喰らっている彼の姿があったのだけど、それ以上彼は微動だにせずしない。
それどころか、彼は笑っていた。
その不敵な笑みに私は心を奪われた……。
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