第11話 義妹には兄がいたはずなのに

私は海西空、地元の進学校に春から通う新高校一年生。


家族はお父さんだけだったけど、もうすぐ再婚してお義母さんができます。

だけどそのお義母さんにも連れ子がいるらしく、同い年の男の子らしい。


名前は川辺陸、後に海西陸と名乗ることになる男の子だ。


その子の方が生まれた月が1ヶ月早いらしく、私は妹と言う立場になるのだけど、まさか名前までお兄ちゃんと一緒だとは思っても見なかった。


私には同い年のお兄ちゃんがいた。


海西陸。

義兄と同じ名前を持つ、私とそっくりな一卵性双生児……いわゆる双子だった。


性格は優しくてスポーツ万能とまではいかないけど運動神経は良く、勉強もできる自慢のお兄ちゃん。


見た目も私に似てそっくりで、カッコ良かった。

……いや、私が可愛いとか言うつもりはないのだけれど。


私のお兄ちゃんは、ほかの男子が芋に見えるくらいにカッコ良くて自慢の兄だった。今考えると、私はブラコンの気があったのかもしれない。


だけど、小学6年生の夏休みに行った旅行先でお母さんとお兄ちゃんは事故に巻き込まれて亡くなってしまった。


その死は私に暗い影を落としてしまい、感情をうまく出せなくなってしまった。


笑おうとしてもうまく笑えない、泣こうとしても涙が出ない……感情というものが欠けてしまった感覚が私を襲った。


中学生になって徐々には戻っていったけど、一度欠けてしまった感情は未だに戻って来なかった。


心に去来するのは兄を失った悲しみと憂鬱で、人と付き合う事がうまくできなかった。


だけど、私の心の中を人は知らない。

自分で言うのもアレなんだけど私がなまじ可愛く生まれてしまった事で、男の子からよくモテてしまい告白をよくされた。


それは私にとって不快な事だった。

今は亡き兄という存在が心にいる為、彼らを比べてしまうのだ。


思い出はいつでも美しいものだというが、兄を思い出すと、彼らの事が芋にしか見えなくて誰とも付き合いたくなかった。


そんな憂鬱な日々が続いたある日、お父さんがある女性を連れてきた。


川辺と名乗るその女性と父は交際していて、将来的には再婚したいと2人は話していた。


お父さんにも幸せになって欲しいから、私は快く承諾はしたのだけど、川辺さんには同い年の男の子がいるらしい。


私はその事実に嫌悪感を抱いた。


お兄ちゃん以外の同世代の男の子はみんな飢えた獣のように見えていた私は考える時間を貰い、お父さん達はそれを快諾してくれた。


結局、受験が終わるまでは再婚しない事になった。

だけどそれは受験が終われば否応無しに再婚するという事になる。


その上、同い年の男の子と一緒に住まないといけなくなる事実が付いてくる。その事実に私は、受験勉強をしながらも頭を悩ませる日々が続いた。


晴れて志望校に合格した私はついに川辺母子と対面する事になった。


少しお高そうなレストランで会食をする事になり、私は緊張した。


受験期間中、川辺さんとはよく会っていたけど、兄になる人とは会っていない。


……どんな人なんだろう。

恐怖と興味が入り交じる胸中に兄の面影が過ぎる。


他人を兄と呼ばないといけなくなるのかと思うと憂鬱が支配する。


「お待たせしました。」

和かな表情で私達に挨拶をする川辺さんが私達の前に現れる。だけど、息子さんの姿は確認できない。


「空ちゃん、この子が私の息子の陸よ。変わった子だけど仲良くしてね……。」


お義母さんが後ろにいた息子を引っ張って私の前に押し出す。


私はその容姿を見てびっくりした。

すらっとした体型だけど、モサい……というか前髪で目を隠しているのだ。かろうじてメガネを掛けている事が確認できる程度の髪型に声を出せずにいた。


……ん、ちょっと待って!!今、なんて言ったの?

私はお義母さんの言葉を思い返す。


だけど、思い返す前にモサ男(命名、私)が声を発した。


「は、はじめまして。川辺陸です。……よろしくお願いします。」

彼も緊張しているのか、ドモリながら自己紹介をする。


……はぁ〜!!

私は何故か怒りに満ちてしまう。

それもそのはず。


彼はあろう事か、同じ名前を持っていたのだ。

私の大好きなお兄ちゃんと……。


運命といえば格好もつくのだろうけど、こんなモサ男(命名…以下略)と運命なんて感じたくもなかったし、嫌悪感も増した。


釈然としない中、つつがなく食事会は終わった。

だけど帰る直前にもう一つの事実をお義母さんから聞くことになる。


「陸は空ちゃんと同じ学校に行くから、よろしくね」


……はぁ、今なんて言ったの?

モサ男(略)と一緒の高校なんてありえない!!

双方別の高校なら互いに干渉せずに済むのに、なんで一緒の高校なのよ!!

高校の入学手続きが終わったのに、今更別の高校に行く事はできないじゃない。


川辺母子と別れた後の車内で、私は不満だった。


けど、この日を境に私の感情に変化が起きていた事を当の本人は気付いていなかった。


高校の入学式を一週間前に控えて、川辺母子は海西を名乗り、我が家に引っ越してきた。


お父さんとお義母さんが家の片付けに精を出す中で、私はモサ男(r……)の部屋に行く。


『有り得ない!!こんな冴えない隠キャが私の兄になるなんて!!』


私は奴を目の前に思いの丈をぶつける。

今考えると、会って間もない人にひどい事を言ったとは思った。


とはいえ、この日の私は彼にそう言わざるを得なかった。彼は私にとって他人なのだ。

絶対に兄とは呼びたくない。実の兄と同じ名前すらも……。


私の言葉を聞いた彼の表情は髪の毛のせいで測れない。ただ、ショックを受けた様な反応に私の心は少し痛んだ。

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