第30話 女子達は俺の噂話をするはずがない(前編)

陸がボーリングを行っていた一方、彼の自宅では女子達が女子会を開いていた。だが、その場の空気は約1名を除いてどこか暗かった。


「ねぇ、どうしたのよみんな?この前まで好きな人に会えた〜!!とか言って喜んでたくせにぃ。」

開口一番、出雲理沙は3人に対して暗さの理由を伺う。


だが、他の3人は抜け殻のように沈んでいた。

そんな空気の中で、理沙はどことなく居場所を見つけられず、「はぁ……。」とため息をつく。


そして、先日の雨の日のことを思い出していた。


先日の雨の日、私は雨が収まるのを待っていた。だけど雨は全然降り止む様子がない。


「はぁ……。」とため息をついていると、同じように海西さんが窓の外を見ながら雨が降り止むのを待っている。


「海西ちゃんも雨が止むのを待っているの?」

私は彼女の側に寄ると声をかけた。

私の声に気がついた彼女は私の顔を見ると、うんと頷く。


……可愛い。クラス三大美少女って言われるだけの事はあるわぁ。

口数が多い子ではないのはこの前の親睦会で知っていたけど、その雰囲気も相待って神秘的な雰囲気を醸し出している。


私はにやけそうな顔を必死で耐えながら彼女の視線を追うように窓の外を眺める。雨は止む雰囲気はないまま、音を立てて降っている。


「出雲さん、海西さん。帰らないの?」

私達が窓の外を眺めていると背後から声がかかる。

後ろを振り返ると、そこには美内さんと冷泉さんが歩いてきていた。


「うん、雨が強くなってきたから雨が収まるのを待っているの。」

私は平然とした態度を取りながらも、内心は喜びであふれていた。

それもそのはず、クラス3大美女が私の前に勢揃いしている。


美内さんはハキハキしていてどこかボーイッシュだけど、可愛い顔つきをしている。そして冷泉さんに至ってはまさにお嬢様といった雰囲気でクラスのアイドルと言われているのも頷けるほどの美人なのだ。


……尊い。

彼女達の可愛らしさにうっとりする。と、同時に自分がその話の中に入れていることが嬉しくて仕方がなかった。


クラスのトップカーストの中に私がいる。去年までは考えられなかった事態を誰が想定しただろう。背伸びをして高校生デビューをした自分を褒めたくなる。


「じゃあさぁ、雨が収まるまで話でもしない?」

美内さんがクラスを見回した後に提案してきた。


クラスメイト達はすでに帰宅をしたり、部活に行くなどですでに私たちしかいない。



「いいね!!海西さんはどう?」


「いいよ。」

私が海西さんに尋ねると、彼女は口数少なく相槌を打つ。


「冷泉さんは?」


「私も30分くらいなら大丈夫ですよ。」

冷泉さんも控えめに微笑みながら頷く。


「決定ね!!」

と言った美内さんは傍にあった椅子を引いて座る。

私たちもそれに続くように手近にあった席を陣取る。


たわいもない雑談から始まったプチ女子会は時間が経つにつれ盛り上がる。


「そういえばさぁ、みんなって彼氏いるの。」

美内さんが唐突に彼氏の存在の有無を聞いてきて、その言葉にその場の空気が凍りつく。


私は過去に彼氏はいた事がない。それどころか中学校で友達がいたことがなかった。唯一の友達といえば、オンラインゲーム『ガーディアン・ファンタジー』でいる旦那様、リックしかいない。


「いないよ……。」

虚しさを覚えながらも、私は彼氏の存在を否定する。

それを皮切りに他の二人も彼氏の存在を否定する。


「ありゃ〜、こんなに美女揃いなのに彼氏居ないのか〜。残念。っていう私もいないんだけどね。」

可愛らしく舌を出しながら笑う美内さんの言葉に私も共感する。


私を除いた他の3人は世間でも目を引くくらいの美少女だ。

その3人が彼氏がいない事に驚きを隠せなかった。


「じゃあ、好きな人はいる?海西さん。」

完全に場の空気を支配している美内さんは海西さんに好きな人がいないかを尋ねる。


すると、海西さんは小さく頷く。

その様子を見た身内さんと私は食いつく。


「えぇ〜、いるの?どんな人!!」


「……とても強くてかっこいい人。この間、私を助けてくれたの。」

顔を赤めながら俯く彼女に、私の胸がキュン!!となる。

この子ほんとに可愛いのだ。


私たちはきゃっきゃいいながらしばらく彼女の話を聞く。

そして、次のテーゲットは冷泉さんだった。


「私もいますね。塾で一緒になった子ですけど、ようやく見つけました!!」

普段の彼女からは考えられないほどの嬉しそうな声をあげる。


「えっ?見つけたの!?誰!!」

美内さんは事情を聞いていたようで二人の間では理解が進んでいる様子だった。


「秘密です〜。」

悪戯そうな笑顔を浮かべる彼女を見て美内さんは発狂する。


「えぇ〜、けち!!ダメ男くんが誰か教えてくれてもいいじゃん!!」


「あぁ、またダメ男くんって言った!!ちょっと抜けているだけでダメ男じゃないですよ!!」


「あー、ごめんごめん!!」

冷泉さんは好きな人の悪口を言われて感情をあらわにすると、美内さんは冷泉さんの剣幕に怯み、謝っていた。


「コホン、じゃあ美内さんはどうなのよ!!作家さんと会えたの?」

落ち着きを取り戻した彼女は美内さんの好きな人のことを尋ねた。


「そうそう、聞いてよ〜!!この前ね、私の大好きな高校生作家さんが私の幼馴染だったんだよ!!これって運命だよね、ね!!」

美内さんは冷泉さんの質問を受けて目を輝かせると、興奮気味に答えると目線は遠くどこか違う世界に入っていった。


私たちはそんな彼女にちょっと引いてしまう。


「……で、出雲さんは好きな人とかいないの?」

気を取り戻した冷泉さんが私に好きな人がいるかを尋ねてくる。

その言葉に私はどきっとした。


私は中学時代からボッチでいることが多かったから好きな人がいた事はない。それどころか、会話をしていた男の人もあの人だけ。


毎週水曜日の8時に会えるゲーム上の旦那様、『リック』と会話をすることをここ数年間楽しみにしていた。


会えない日は落ち込み、前日になればソワソワし、当日になれば時間を気にする日々が続く。そしてその時間になれば、彼は必ず私の側に来てくれる。

そして、私を励ましてくれてきた……と思うと、急に私は頭から煙を上げる。


……あれ、私はもしかしたら彼のことが好きなのかもしれない。


改めて自分の好きな人はリックと名乗る画面の向こうにいる誰かなのだ。

ただ、この話はできない。この話をすると彼女達に引かれて、中学時代に……ぼっちに戻ってしまう。それだけは避けたかった。


「……いないよ。」

実態のない人に恋心を抱く自分に嫌悪感を抱きながら、私は嘘をつく。


雨はその嘘を隠す事はなく降り続いていた。

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