閑話 男達に友情が芽生えるはずがない……(ぽろりもあるよ!!)

義妹達がそれぞれの思いを胸に、自宅で女子会を開いている最中、俺はボーリング場でイケメン達に囲まれていた。


「知ってはいると思うが、こいつはモブ山モブ太。そしてもう1人がサブ島サブ郎だ。」

玄白がイケメン2人を紹介する。


……え、クラスでも5指にはいるイケメン2人をモブとかサブ扱いとか、ひどくね?


玄白の紹介に戸惑っていると、彼らは怒る事なく「よろしく!!」と玄白に負けないくらい眩しい笑顔で手を差し出してきた。


…‥ウホッ、いい笑顔。じゃなくて、えぇ〜2人とも、モブ扱いされてるけどそれでいいの?


戸惑いながら握手をする俺をよそに、彼らは嬉しそうだった。


「さて、紹介も終わった事だしボーリングでも始めますか!!」

俺たちのやりとりを嬉しそうに見ていた玄白がその場を締めて、ゲームが始まった。


彼らはみんな運動部だったという事もあってストライクを連発していく。


対して俺はなかなか波に乗れず、ガーターを連発する。


俺自身もあまりボーリングをしたことがなかったのが原因ではあったが、彼らに比べて下手な事には変わりなかった。


結果、俺以外の奴らは俺より50以上スコアが上で1ゲーム目が終わる。


「くそ……だいぶ離されたな。」

1人静かに悔しがる俺を見て玄白はニヤリとする。


その視線を感じた俺は「何だよ?」と言うと奴は意味深な顔で「別に」と言って他の2人を見る。


その顔に疑問を感じていると、急に玄白が声を上げる。


「よっしゃ、次のゲームは対抗戦しようぜ!!チームは俺とサブ郎、陸とモブ太でやるぞ!!負けた方はジュース奢りな!!」


俺たちのゲームの結果を見て決めたのか、トップのモブ太と最下位の俺、二位の玄白と三位のサブ郎と言う組み合わせになった。


「陸、よろしくな!!」と、身体がゴツく少し厳つめな印象を持つモブ太が笑う。


「……よろしく。」

人見知りの俺は小さな声で返事をする。


「おう、よろしく!!それより陸、お前はボーリング初めてか?」


「いや、10年くらい前に死んだ親父と行って以来だ。」

俺の話を聞いたモブ太は申し訳なさそうな顔をする。


「気にするな、昔の話だ。」


「そうか、すまん。それよりお前、球を投げる時、どこを狙って投げてる?」


「えっ?何処にって、ピンの1番先頭を狙って投げてるよ?」

俺がボーリングの先頭のピンを指差して言うと、モブ太は「やっぱり……。」と言って俺をレーンの前に連れて行く。そしてレーンにある手前のドットを指差しす。


「ボーリングは手前のマーカーの真ん中から右から2つ目を狙うんだ。そしたらストライクがとりやすくなる。」


「ほうほう。」


「それに、お前は力み過ぎだ。力がありそうだけど、力だけではストライクは取れないぞ。あとフォームもバラバラだ。」

と言って、フォームやステップを分かり易く説明してくれた。


その甲斐あって窮屈だった動きが改善される。俺たちのやりとりを玄白とサブ郎は嬉しそうに見ていた。


そして、第2ゲームが始まった。

俺はモブ太のおかげで改善されたフォームとコツのおかげで格段に動きが改善され、ストライクを量産する。


誰かがストライクを取ると相手も負けじとストライクを取る。ゲームは一進一退の白熱した様相を見せる。このゲームも俺で投球で終わる。


勝つためには少なくとも1回はストライクを取らないと俺とモブ太のチームは負けてしまう。


その場の熱と最後の投球という緊張感に支配されて、俺はじっとりと汗をかく。その汗を腕で拭うと、眼鏡がぽろりと地面に落ちてしまう。


「陸、眼鏡が落ち……。」

玄白が眼鏡を拾って俺に手渡そうと、俺の顔を見ると、言葉を失った。


「ん、ああ。ありがとう、玄白……どした?」

俺の顔を見てぼーっとする玄白は気を取り直す。


「ん、ああ……何でもない。それより、お前の番でケリがつく。俺たちに勝てるかな、素人陸くん?」

不敵な顔で挑発してくるやつの言葉に乗ってしまった俺の心に火がつく。


メガネを玄白に預け、髪をオールバックにする。

そうすることにより視界はぼやけてはいるものの、メガネのフレームが視界から消え、逆に集中力が増す。


普段空手を行うときのスタイルだ。

そんな俺の姿を見た3人が一斉に言葉を失う。


「どうした?」


「だから、なんでもないって。それより陸、早く投げろよ。俺はお前に奢ってもらうからな!!」


「言ってろ!!」

玄白の言葉を切った俺はボーリングの球を右手に掴みレーンの前に立つ。

そして両手でボーリングの球を抱えて顔の元へと持ち上げると、一呼吸の間をとる。


その呼吸で全身の体の力を抜き、リラックスをすると俺はレーンの向こう側にあるボーリングのピンを見つめる。


そんな俺の姿を玄白達はゴクリと喉を鳴らして見つめている。

そして意を決した俺はゆっくりと一歩、また一歩と足を踏み出す。


体の力が抜け、滑らかに体が動く。

自分の中にある理想的な形で自然と球を持つ腕を振り上げる。


……よし、完璧。あとは腕を振り下ろすだけ!!

理想のフォームで体が動いていることに一瞬の雑念が入るが、その時……。


「ふぁっくしょい!!!!!!」

隣のレーンのおっさんが盛大なくしゃみをかます。


その音にびっくりした俺は驚いてしまい、振り下ろされたてからボーリングの球がすっぽ抜ける。


ボーリングの球はごとんという音と共にレーンを転がっていき、ピンに触れることなくレーン脇の溝へと吸い込まれていった。


俺はその球の軌道を見て呆然とし、3人はそんな俺の無様な姿を見て大笑いを始める。


「笑うなよ、くそ!!邪魔さえなければ……。」

顔を真っ赤にした俺はボーリングの球が帰ってくるのを待ちながら、恥ずかしさに耐えていた。


そして、くしゃみのことで投球フォームが崩れてしまった俺は2投目もガーターになってしまう。

理想的なフォームの感覚をつかめていただけに、ちゃんと投げきれなかったことが悔やまれるが、あとのまつり。


ゲームが終わり、玄白のチームが勝利が確定した。


「どんまい、どんまい!!邪魔が入ったんだから仕方ない!!」

モブ太が励ましてくれるけど、今回の負けは俺の責任である。


「明鏡止水は程遠いか……。」

自分の集中力のなさを恨みながらも、モブ太のそばに行く。


「ごめん、負けちまった。俺のせいだからお前の分も奢らせてくれ……。」


「いや、仕方ないって。よし、気を取り直してジュース買いに行くぞ!!」

モブ太とサブ郎は俺の肩に腕をかけて自販機の方へと連行していく。


「俺の見立て通りだったな……。」

俺たちの後ろ姿を玄白はにやりと笑って見ていた。

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