第32話 俺の部屋に女子達が入ってくるはずがない

うほっ☆男だらけのボーリング大会も終わり、玄白と別れた俺は自宅へと足を向ける。


帰ったらまた義妹が居る事に気が重くなるが、一人暮らしが出来ない以上は自宅に帰る他ない。


ため息を吐きながら、自宅へとたどり着くと玄関のドアを開けて靴を脱ぐ。


すると洗面所の方から水を流す音がするので義妹がいるのかと思って顔をあげると、ちょうど手を洗い終わったのか、制服姿の義妹が出て……きていない!!


その顔は義妹ではなかった。

そいつの顔はいつも俺の事を目の敵にしているギャル、出雲理沙だった。


……なぜ、なぜこいつが此処にいる!?

自宅での突然の天敵との遭遇に脳内はすでにパンク状態になりながらも、ギャルと視線を交じり合わせる。


だが、いつものように罵倒が飛んで来ない。

いつ罵倒が飛んでくるかひやひやしながらもギャルの様子を伺っていると、ギャルは急にあたふたしだす。


「すいません、お邪魔しています!!」


いつものように鋭い目つきで罵倒が飛んでくると思っていたが、ギャルの口からは猫を被ったような挨拶だった。


そんなギャルの様子に緊張の糸が切れた俺は、「……ど、どうも。」と言って2階の自室へと戻っていく。


自室へと戻った俺は荷物を置くと学習机の椅子に座りながら、出雲理沙がなぜうちにいるのかを考えていた。


確かにクラスで義妹と仲良くしている姿は何度か目撃していたから友人関係にあるのは知っていた。


だが、義妹がうちにクラスメイトをあげるとは思ってもいなかった。なんせ俺の存在を彼女は大っぴらにしたくないはずなのだ。


だけど、義妹はギャルを連れてきた……。

どういう風の吹き回しかと思う。


義妹の心の変化を疑問に思いながらも、もう一つの疑問にも焦点を向ける。


そう、天敵であるギャルがなぜ俺をみて罵倒をしてこなかったかと言う事だ。

しかも、まるで借りてきた猫のように俺に挨拶をしてくることはまさに驚天動地だった。


俺はギャルの豹変した理由をしばらく考えたが、結局分からずにかき上げていた髪をぐしゃぐしゃにして普段の髪型に戻す。


……やっぱ、この髪型が落ち着くな。

そんな事を考えながら、俺はパソコンの電源を入れる。


パソコンの画面がつき、立ち上がりをしばらく待つと、俺は画面上にあるガーディアンファンタジーのアイコンをクリックする。


そしていつものように壮大なBGMを聴きながら、ログインボタンを押すのだが……廊下から数人分の足音が聞こえてきた。


……帰るのかな?それにしても何人来てるんだ?などと考えている刹那、ドアがコンコンと音を立てる。


義妹が俺の部屋に来るなんて珍しい……と思いながら、聞こえないフリをしていると、勢いよく部屋の扉が開いた。


その音に驚いた俺は、マウス片手に部屋の入り口の方を見て固まってしまう。


「あぁ、本当だ〜、海西じゃん!!」

そう言ったのは幼馴染の美内だ。


……あぁ、本当だ〜じゃない、不法侵入で訴えるぞ!!

びっくりした気持ちを落ち着けながら、俺は扉を開いた幼馴染を睨む。


後ろではオロオロしている義妹とドアを勝手に開けた事を諭すような格好のアイドル様、そして俺の存在を確認して嫌そうな表情を浮かべるギャルがいた。


「ねぇ空ち、ご兄妹ってこいつだけ?どうみても隠キャなんだけど……。」


「うん、こいつだけ……。兄妹って言っても他人だけど。」

俺を嫌う義妹とギャルがそれぞれに厳しい言葉を投げかける。


その後ろではアイドル様が大きな両目をパッチリ開けて、両手で口を隠しながらこちらを見ている。少し頬が赤いような気がするが、気のせいだろう。


「……なんですか?」


「いや、空に兄妹がいるって聞いたからちょっとどんな人か見に来ただけ。」

俺が彼女らになんの用かを尋ねると、幼馴染

が答える。


……いや、俺は見せ物じゃないからな?

恨み節を言いたくなりながらも、俺は彼女達の様子を見つめていた。


「用がないなら出て行ってよね、今からゲームをするんだから……。」

俺が机のほうに向き直しながら言うと、ギャルが何かに反応するようにピクッと動いた。


「そんな訳にはいかないよー。海西には確認したい事があるからねー!!」

と言って幼馴染はずかずかと俺の部屋に入ってくる。


「ちょ、おま!!」

その様子を見た俺が声を上げる間もなく、幼馴染は俺の前に立つと突然俺の髪を触る。


「ちょっと、美内さん!!」

なぜか強い口調で起こるアイドル様を尻目に、幼馴染は俺の髪をかき上げて俺の目を露わにする。


……近い!!

その距離感に俺は顔を真っ赤にしながら、されるがままになっていると、幼馴染はくすりと笑う。


「へぇ、海西ってこんな顔をしてだ。」

と言うと、ギャルが興味なさそうにこちらに近づいてくる。そして、俺の顔を見ると驚いた表情を浮かべる。


「げっ、隠キャってこんな顔してたんだ!!さっきのときめきを返してよ〜。」

と、散々な事を言ってくる。


「いや、知らねえよ!!お前ら、そろそろ出てけよ!!」

その言葉に何故かご立腹な顔をするアイドル様に気づかずに怒っていると、幼馴染はニヤニヤ笑う。


「まあまあ、海西。何でこんなに髪伸ばしてんの?ちゃんとしたら少しはモテそうなのに?」


「どうでもいいだろ?散髪代の節約だよ!!」

俺は幼馴染の言葉に人見知りを棚に置いた言い訳を口にする。


「えーっ、空ちゃんはちゃんとしてるのに?」

と、言うと彼女は少し何かを考えると義妹に声をかける。


「空、髪を切るハサミを持ってない?持ってたら貸して欲しいんだけど……。」


「……えっ、あるけど、どうするの?」

そう言ったの幼馴染は俺の眼鏡を外すと持っていた櫛で俺の髪をかき上げる。


「こいつの髪を切ってあげようと思って。」

と言いながら髪を櫛で押さえたまま俺の背後へと移動する。


開かれた視界を見るために目を細めながら正面にいる義妹を見る。

俺の顔を見た義妹は驚いた顔をして、一歩後ろへと下がるとドアの横の壁に寄りかかってしまった。


今まさに、パンドラの箱が開かれた瞬間だった。

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