第17話 幼馴染は運命を知るはずがない

わたし、美内明日香は3人兄妹の末っ子だ。


上に兄が二人いて、よく遊びに行くのも一緒だった。

だから幼いころの遊びかたもどちらかと言うと男の子の遊びが多かった。


野球やサッカーを兄やその友達に混じっていたせいか、性格も当時は男勝りだったし、いまだに融通の効かない性格をしている。


それもそのはず、お父さんが正義感の強い人で、その性格を最も強く受け継いだのが私だったからだ。


そんな時に私は同い年の男の子に出会った。

松平陸という男の子だ。わたしは彼のことをりっくんと呼び、彼はわたしをアスと呼んでいた。


校区が違い同じ学校に通う事はなかったけど、いつも公園でよく遊んでいた事を覚えている。


その子はどちらかと言うと控えめな性格で、女のわたしのあとを追ってくるような子だった。たまにいじめられそうな所を助けたこともあり、彼はわたしに懐いていた。


だけど、彼は10歳の頃に親の都合で引っ越してしまった。

彼からその事を聞いたわたしはその事実にショックを隠せず、別れ際にサヨナラも言わずに家に帰ってしまった事を覚えている。


家に帰ったわたしは一晩ショックで泣いた。


これがわたしにとっての初恋だったのかな?

と、今にしてみれば思うし、未だにその想いが残っているのには驚いてしまう。


そして、中学生になり兄達と遊ぶことも減っていったある日、わたしはある事実に気がついてしまう。


男の子と遊ぶ方が多かったからか、周りの女子との話が微妙に合わないでいたのだ。


周りの子達は可愛いものや服の話、好きなアイドルと言った話が中心で、その話に入っていけないわたしは苦笑いをしながらもなんとかその中に溶け込もうとしていた。


男の子っぽい性格や考え方がコンプレックスとなったわたしは可愛い服や可愛いものに憧れを抱くようになり、男勝りだった性格も徐々に丸くなっていった。


そんなある日、わたしは友達から勧められたWebサイトをよく見るようになった。カケヨメと言う小説サイトだ。


最初はWebサーフィンレベルだったのだけど、ある日わたしはある作品に目を引かれる。


『雨の中にたたずむ君に恋をした』と言うWeb小説だ。

中身は青臭い内容の話で、以前のわたしならきっと30秒で読むのをやめてしまうだろう恋愛小説だった。


だけど、思春期の真っ只中に突入したわたしの目にこの恋愛小説はどこか眩しくみえ、運命の恋に憧れを抱くようになった。


中学3年生の夏のことだった。その小説を読み進めていくうちにこの作者がペンネームを変えてデビューする事が決定したの事を知り喜んだ事を今でも覚えている。


だけど、その作者が松平陸と言う名前でデビューする事にわたしは驚いた。

幼い頃に一緒に遊んでいた男の子、りっくんと同じ名前だったことや作者がわたしと同い年の男の子である事に運命を感じ、彼のファンになった事は言うまでもない。


だけど、作者は受験もあると言う事でデビュー自体はわたしたちが高校1年生になる4月になると言う事だった。そして、発売日には近くの大型書店でサイン会が行われると言うことにわたしは狂喜乱舞した。


運命を感じる相手がまさかの同じ地方都市でサイン会を行ってくれるのだ。

いかないはずがなかった。


サイン会に行くと言うことを励みにしてわたしは受験勉強に励んだ。

辛い時も、しんどい時も4月になれば作者にあえる。

もしかしたらあの”りっくん”かもしれないと思うとどんなことでも頑張る事ができたのだ。


月に数度、松平先生がアップする小説の続きもわたしの心に火をつけた。


「同じ中学生なのに受験をしながら小説を上げてくれる先生に負けてはいられない!!」と言う想いでわたしは受験を乗り切り晴れて志望校に合格する事ができた。


そして春、晴れてJKデビューを果たしたわたしは入学式当日を迎える。

晴れやかに行われる入学式にわたしの胸は高鳴る。


新しい生活の始まり……じゃなく今週末に迫ったサイン会が楽しみで仕方がなかったのだ。


入学式も終わり、クラス分けが発表される。

わたしのクラスは特進クラスで女の子ばかりのクラスが多いなかで、男子がクラスにいると言う特殊なクラスだった。


高校生活初めてのホームルームで私たちは自己紹介を行う。

クラスメイトが自己紹介をしていく中、わたしは一人の男子生徒に目がいく。


伸びた髪で顔を隠した男の子の後ろ姿だった。

その子は眼鏡をかけている様子はわかるけど、顔まではよく見えなかった。


自己紹介も進んでいき、その子の順番が回ってきた。


「海西陸です……。よろしくお願いします。」とだけ言った彼は早々と着席する。


クラスにはもう一人海西さんと言う女の子がいて、兄弟かどうかを尋ねられていたが彼女はそれを否定した。


だけど、わたしにとってはそんな事はどうでもよかった。

彼の声や後ろ姿にどこか懐かしさを感じたのだ。


彼に確認したい事があり、わたしはホームルーム中モヤモヤとした気持ちでいっぱいだった。


ホームルームが終わり、午前中で学校は終わった。


クラスの親睦を図るために親睦会を行おうとクラスの誰かが発案した。

満場一致でカラオケに行く事になり、わたしも海西くんに確認したい事があって参加する事に決めた。


だけど、その親睦会には彼は参加する事はなかった。


この日、彼に話しかけていたらもしかしたらわたしの運命は違うものになっていたとは、思いもよらなかった。



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