第18話 幼馴染は幼馴染を見つけたはずなのに

クラス会が行われ、わたし達はそれぞれに友人を作っていった。

わたしの隣にはいかにもお嬢様といった出立の女の子、冷泉綾乃さんと仲良くなった。


だけど、一番気になっていた海西陸くんは所用があって来られないと言う事にわたしはショックを受けていた。


もしかしたら幼い頃に一緒に遊んだ男の子かもしれないと思うと残念で仕方なかった。


とはいっても、確信があるわけではない。


第一、苗字が違うのだ。

彼は海西で、幼馴染は松平……。


親が離婚していたとしたらあり得る事実なのかも知れないけど、憶測だけでは確信できない。


……早く会って話がしたい。確認したい。


頭の中はそんなことばかり考えてしまって、どこか上の空だった。


クラス会も終わり、クラスメイト達はそれぞれに自宅へと帰っていく。

わたしも同じ方向の海西さんと一緒に帰る事にした。


何気ない会話を交わしながら家路を急ぐ。

だけど彼女の足取りはどこか重い様子だった。


海西くんのことを聞こうかと思ったけど、クラスメイトとの会話で無関係であることを聞いていたので聞くのはやめた。


「わたし、ちょっとコンビニに寄って帰るから……。」

海西さんは交差点で急に立ち止まって言う。


わたしの家は交差点をまっすぐいった所だけど、コンビニは右に曲がらないといけない。だから、ここで海西さんとは別れた。


家にたどり着いたわたしには自室で服を着替えてリビングへ向かうとお母さんが、わたしに声をかけてきた。


「ちょっと、買い物に行ってきて!!卵が切れちゃってて……。」

その声にわたしはうんざりしながら「はーい。」といってお財布を持って家から出る。


スーパーは海西さんが行った道の方向にある。

すでに海西さんは帰っただろうから会う事はないだろう……。と思っていると、わたしは喧嘩の現場を目撃する。


うちの制服を着た男子生徒が男3人に囲まれている光景だった。

それ以外に女の子の姿もあったけど、顔までは見えなかった。


わたしは危険を感じて物陰に隠れると、3人の男のうちの一人が男子生徒に殴りかかっていた。


彼はその初撃を避けた。そして逆上した男の二発目の拳を頭で受けると一瞬で3人をうちのめす。


地面に倒れた男達が慌てて逃げていく様子を見て、なぜかわたしは腹が立った。

暴力はいけないと幼い頃から父に教えられていたし、女の子を連れて逃げるとか考えれば方法はあったはず。一方的な考え方ではあったけど、暴力で物事を解決する人が好きになれなかった。


だから彼がこちらに来ることが分かると、わたしは彼の前に立ちはだかった。


「君。女の子を助けるためとは言え、暴力を振るうなんて信じられない!!」

「はぁ、お前、何言ってんの?」

私の言葉に腹を立てたのか語気を強めた相手がこちらを睨んでくる。


その瞳は細くて鋭い。髪型もオールバックにしているせいかやたら悪い人相が余計に悪い。


だけど、私は負けじと持って生まれた正義感と男勝りの性格を発揮する。

「なんでも暴力で解決しようとするから、暴力は無くならないんです。あなたみたいな人がいるから、ダメなんです!!」


「じゃあ、どうすれば良かったんだよ?」

私の言葉にますます怒りの色をあらわにする彼に私は少し怯む。


暴力で物事を解決しようとする人きっとわたしにも暴力を振るうに決まっていると決めつけてしまう。


「私にまで怒鳴るなんて最低ですね!!話し合いで解決すれば良いに決まっています!!これだから不良はダメなんですよ!!理性を持って話し合えばきっと相手もわかってくれるはずなのに。」


わたしの言葉に怒りを通り越して呆れた表情をする相手にわたしはますます腹が立ってしまい、彼が反論する隙を与えないまま口撃をする。


「話しかけないでください。汚らわしい!!同じ学校の様ですから会っても話しかけないで下さいね。もし話しかけてきたら今日あった事を生徒指導の先生に伝えますからね!!」

彼が声を出そうとすればそれを制するように言葉を並べる。


彼の言い分もろくに聞かないままでいると彼は苦々しい表情のまま立ちすくむ姿を見てわたしは言い負かした事を確信する。


やっぱり、暴力はいけないよね!!と、自己解決をして私はその場から立ち去った。


わたしの走り去る様子を彼は怒りに満ちた顔で眺めていた。


帰る途中、私は卵を買い忘れていたことに気がつき、彼がいる方向とは逆の道にある少し離れたスーパーで卵を買って帰ると、私は母に「遅い!!」叱られてしまった。


心の中で全部あいつのせいだと恨んだが、まさかこの事がきっかけで海西くんが心を閉じてしまったなんて思いもよらなかった。


翌日、私が学校に登校すると海西くんはすでに席で何かの本を読んでいた。


その様子を見て話すなら今しかないと直感し、少し緊張しながらも私は彼に話しかけに行った。


「あの……。海西くんって昔この辺りに住んでなかった?」

私が急に話しかけに行った事で、彼はなぜか動揺をしていた。


「う、うん。住んでたけど、君は?」

彼の言葉に私はショックを受ける。

彼がもし幼馴染だったとしたらわたしの名前を覚えていてくれていると思っていたけど、名前を尋ねられた。


昨日、クラスでの自己紹介を聞いているはずなのに……。なので私は一計を案じる。


「美内明日香です。覚えてる?昔よく一緒に遊んだ明日香だよ、リッくん!!」

ここまで言えば彼も思い出すと思って、幼馴染の昔の渾名で呼んでみる。


だけど、当の彼は、「えっと、人違いじゃあ……。」という言葉を返してきた。


その答えに恥ずかしくなったわたしは、「人違いかぁ〜、ごめんね〜。」と言って慌てて彼から離れていった。


……人違いかぁ〜。恥ずかしい!!

そうだ名前が一緒でも苗字が違うんだ、幼馴染じゃない可能性の方が高かったんだと後悔した。


だけど、彼の心中を私は知らなかった。


昨日の出来事が、私と彼の間に大きな隔たりを作っていた事を。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る