義妹や幼なじみや学園のアイドルに嫌われているはずなのに、彼女達の話は俺の噂で絶えない

第55話 義妹に反抗するはずがない……

翌日、俺はふてくされた顔で通学の準備をしていた。何故ふてくされているかと聞かれてると、答えは簡単だった。

あの後、義父との話し合いが行われたのだが、一人暮らしの件については保留にされたのだ。

義父には義妹との関係性や家族が成り立つ為には俺が一人暮らしをした方が良いのではないかと提案をしたが、受け入れられなかった。

もちろん自分の稼ぎの事を義父には話していたし、それを担保に説得を試みたが義父は首を縦に振らない。

義父曰く、その状態で俺を一人にさせる訳にはいかないという。それをしてしまうと、ことの発端である義妹まで追い出さなくてはならなくなるとまで言って来る。

自分が決めた事だから気にする必要はないとは伝えても、うんとは決して言わないので俺は「分かった……」と言ってリビングを出ていく。

その様子を見た義父は「……すまなかったね。」と言って俺を見送るだけだった。

そして今に至るわけだが、母に至っては俺の部屋に入って来る気配もなく、本当に母の子供かと疑いたくなるほどの放置プレイだった。

こういう時の母どこか恐ろしい。

再婚話が上がった時も直前まで伏せられていたのだから、どことなく嫌な予感が増す。

だが、そう言ったところで何かが始まるわけでもない。

お義父さんがいつうんと言ってもいいように虎視眈々と一人暮らしをする準備だけは整えておきたい。

そう思いつつ俺は学校に行く支度を整えて、部屋を出る。

すでに両親は仕事に出かけたのか、すでに寝室はもぬけのからだ。

「なんだよ……。」と口走りながらも下の階へと降りていくと、キッチンの方から何かを作る音とほのかに香る朝食の匂いがする。

リビングのドアを開けると、昨日喧嘩したはずの義妹が2人分の朝食を作っていた。

「……どうして？」

その光景を目の当たりにした俺は義妹に思いの丈をぶつける。

今日といい、昨日といい、この間といい彼女の変わり身に不信感を覚えてしまうのは仕方がないことだと思う。

彼女にとっては俺は嫌悪の対象でしかないはずなのにこうやって俺の分まで食事を作る様を見るに彼女の本心が気になってしまう。

「……。」

義妹は黙ったままで、キッチンから2人分のスープ持ってダイニングテーブルの方へやって来る。

その顔は何かをいいたそうに口を開いては口を紡ぐ。

その口が言葉を紡ぐ瞬間をただただ俺は待った。

そして意を決したのか、彼女は真剣そうな瞳で俺を見つめると、重い口を開く。

「今まで……ごめんなさい。」

「えっ？」

俺のことを毛嫌いし、今まで散々罵声を浴びせかけてきた義妹が謝ってきたのだ。

……驚天動地だ。

情緒不安定な義妹に対し失礼を承知で思ってしまう。もちろん、彼女は真剣に謝っているのだ。

「あんたに言ってきた事がすぐに許されるとは思っていないけど、それでも後悔してる……。」

その言葉を聞き、義妹と過ごした短い期間に発せられた暴言の数々を思い出す。

どれもこれも辛辣だった。

そりゃあ、俺自身にも非がないわけではない。

身なりもきちんとしてこなかったし、最後の方は意地になってしまった面は多々ある。

だが、それでも彼女の言葉は俺の胸を抉った事は確かだった。

「空は……どうして謝ろうと思ったんだ？母さんに言われたからか？本心からか？そこがまず分からない。」

義妹に意地の悪い質問をぶつける。

「……危ないところ助けてくれた恩人にひどい事を言ってしまったのに、知らずに悪口ばかり言っちゃったから。」

「じゃあ、君はあの事がなかったら謝ってたか？」

その言葉を聞いた義妹は顔を伏せながら首を横に振る。

「……じゃあ、俺が髪を切る前のままだったら今こうやって声を掛けてきたか？」

ホトホト意地の悪い質問を立て続けにぶつけると義妹は黙ったままで何も答えない。

……物言わぬは最大の答え也。

その様子を見た俺は今までの仕返しと言わんばかりに義妹に言い放つ。

「俺はそんな君の事が嫌いだ。お前から離れたから家を出たいと思ったのは本当の事だ。」

そう言うと、義妹は青い顔をして唇を噛むが、なおも言葉を続ける。

「人の事を散々馬鹿にしておいて、恩人だって気づいたから謝りたい？そんな掌をひっくり返すような事をするな！！」

俺の言葉に義妹は今にも泣きそうな表情をしていたが、そんなことなど構うものかと心の底からいいたい事を言う。

正直、俺がここまで人に対して感情をぶつける事はない。

他人あれば言われるがまま取り繕い、感情を露わにする事はないのだ。喧嘩をしたくないと言えば聞こえはいいが、ただただ他者から逃げて諦めているだけなのだ。

「俺は人の事を知ろうとせずに一方的に責め立てるお前は嫌いだ！！」

最後の一言を言うと、義妹は泣き崩れた。

きっと俺は最低な男だ。

目の前にいるひとりの女の子を泣かせてしまったのだから。これが実の兄妹ならこの罪悪感は消えたのだろうか？それは分からない。

俺たちはもともと他人なのだ。

わかり合う努力をしなければ、拗れてしまうのは目に見えていたのだ。

だが義妹はそれを拒否し、俺はそれから逃げてきた。それは互いの落ち度なのに、一方的に報復するのはフェアーじゃない。

俺は泣き崩れた義妹のそばに行くと、義妹の肩に手を置く。

「空は……、ここまで言われても俺を許す事はできるか？」

俺がそう言うと、彼女は泣きながら首を横に振る。

「じゃあ、謝るのをやめるか？」

彼女は再び首を振り、声にならない声で「ごめんなさい……。」と口にする。

「俺も空もお互いの事を知ろうとしなかった。それは互いにとってよくない事だったんだ……。なら、今からでもやり直せるさ。」

その言葉に彼女は顔を上げてこちらを見る。

その目には大粒の涙がたまっている。

「だって、俺たちは兄妹になったばかりだからな。」

俺がそう言うと、義妹は再び「ごめんなさい。」と連呼して俺の胸に飛び込んできて泣き始めた。

……一人暮らしはまた後で時考えよう。

義妹の子供のような泣き声を聞きながら、俺はそう思った。

少なくとも俺は普通の家族に憧れていたのだから……。

「……そういえば、これお義母さんから。」

泣き止んだ義妹が涙でくしゃくしゃになった顔を拭いながら、テーブルにある手紙を手渡してきた。

なんだろうと嫌な予感を感じながら義妹からその手紙を受け取る。

そこには……。