第56話 人が簡単に変わるはずがない……
『陸へ
今回の件は私と空ちゃんと二人で話をしています。
空ちゃんがあなたにした事は許し難い事だとは思うし、その事についてはきちんと注意はしておきました。
許す許さないはあなたが決めることだから私の口からはとやかく言うつもりはありませんし、一人暮らしについてはあなたが答えを出してもいいと思っています。
もちろん母親としては心から反対だけど、あなたの事を1番よく知っているのは何より私なのだから、一人でもやっていける事は分かっています。
けど、あなたにとって周囲と向き合う事が今1番大事な事だと思うから、今回はあえて話をしませんでした。
だって、変なとこで頑固なあなたに話をしても自分の考えを変える事ってないじゃない?
いくら言っても髪の毛を切らなかった事もそう!!(怒)
それにあなた達はもう少し素直に自分の思いを伝えた方がいいと思います。
だから少し時間をください。
ていうか、勘のいいあなたなら既に気づいているとは思うけど、私達明日から急遽1週間ほど出張なのよね〜。
伝えるの忘れてたぁー!!(≧∀≦)>テヘペロ
だから、空ちゃんにあなたの世話は任せてるから空ちゃんの事のこと、守ってあげてね、陸兄ちゃん。よろしくねー!!
ps.
空ちゃんに何かあったらコロスから!!』
と書かれた手紙が義妹から渡される。
それを見て俺は唖然とする。
一人暮らしの予定がなぜか義妹と2人暮らしをしなければならないのだ。
しかも、仲直りをしようとした瞬間にこれだ……。
もちろん仲直りをしない訳じゃない。
だけど、心の準備ができていない中で2人暮らしとかあの両親は何を考えているのだろうか。
手紙を読み、苦い顔をしている俺を見て義妹は不安そうな表情でこちらを見つめてくる。
「……いや?」
「いや……というか、空はこんなの認められるのか?俺と2人っきりだぞ?」
というと、彼女は戸惑いの表情を浮かべる。
「いや……じゃないよ。私も家族と向き合わないといけないから。」
その言葉に込められた強い意志のようなものを感じてしまい、俺はたじろいだ。
義妹とは向き合わないといけない。
だけど、血の繋がらない義妹と2人で過ごさないといけない事については別の話だ。
俺が頭を悩ませていると、義妹は俺の服を軽く引っ張る。
「……ねぇ、そろそろ学校。」
「うわっ、もうこんな時間!?」
時計を見ると朝8時過ぎ、いくら高校が近いからと言っても急がないと遅刻をしてしまう。
義妹には申し訳ないが、食卓に並んだ朝食をラップしパンだけ食べて2人で家から飛び出した。
そして早足で学校へと向かうのだが、やはり義妹の歩幅が狭く、俺から遅れてしまう。
「……先行っていいよ。」
息を切らせながら義妹は俺に先に行くように告げる。
「バカ言うなよ。遅くなったのは仕方ないだろ。鞄貸しな。」
と言って、俺は義妹に手を伸ばす。
すると義妹は「いいよ……。」と言いながらビクッと体を揺らしたが、俺が鞄に手を掛けると抵抗する事なく鞄を肩から外す。
「……ありがとう。」
義妹は俯きながらお礼を言い、必死に俺の後を追う。
そして2人揃って予鈴ギリギリに校門をくぐると、上がってしまった息を整えるようにゆっくりと教室へ向かう。
すると、教室の前に人集りができていた。
俺と義妹はなんだろうと、顔を見合わせる。
そして人混みをかき分けて教室に入ると、どこか異様な空気が流れていた。
群衆の視線を一点に集めているのはどうやらアイドル様のようだった。
俺はその姿を見てドキリとしてしまった。
あろう事か、アイドル様は腰の辺りまであった長くて綺麗だった黒髪を肩の長さまで切っていたのだ。
そして、彼女は珍しく眼鏡を掛けていたのだ。
……昨日の今日でそれはないんじゃないか?
思い上がりと罵られてしまうかもしれないが、昨日俺が振ってしまった事が原因なら……と考えてしまう。
クラスメイト達は「あれ、どうしたの?イメチェン?」、「眼鏡じゃん!!珍しい!!などと好奇の声を上げている。
「うん。最近枝毛が酷くて……バッサリ切ってもらっちゃった!!」
明るい声で髪を切った理由を語る彼女だったが、その表情はどこか取り繕っているように見えた。
眼鏡に関しても、コンタクトが入らないらしい。
アイドル様の豹変ぶりに罪悪感を感じていると、彼女は俺を見つけてにっこりと笑う。
「おはよう、海西くん。」
「えっ、あ、ああ。おはよう……。」
聖母のような優しい笑顔に戸惑いながら、どうにか挨拶を返した俺だったが、現在の彼女の顔を見るとどこかで会ったような感覚に陥ってしまう。
だが、はっきりとは思い出せなかった……。
キーンコーンカーンコーン
朝礼前の予鈴が鳴り、アイドル様見たさに来ていた生徒たちがそれぞれの席へと戻っていく。
俺と義妹もそれぞれの席へと着き、授業の支度を始めていると、義妹がある事に気がつく。
「……あれ?明日香が来てない。」
「本当だ……。」
義妹の声に反応し、俺は幼なじみの席を見る。
確かに彼女は席にいなかった。
すると、担任が教室に入ってきて点呼を撮り始める。
「美内……、美内はまだ来ていないか?」
担任が幼なじみの席を見て不在を確かめると同時に教室の扉が開く。そこにいたのは元気だけが取り柄な幼なじみの姿だった。
だが、その表情はどこか暗い。
「美内〜、どうした?遅刻だぞー。」
「すいません、体調が良くなくて。」
担任の言葉に返事をして教室に入ってきた幼なじみの視線が俺を捉える。そして、目が合ったと思うとすぐに視線を逸らせ、見比べるように義妹を見る。
……なんなんだよ、一体。
その視線の意味することがわからず、俺はただただ2人の変化に戸惑っていた。
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