第5話 学園のアイドルは俺が好みではないはずなのにに

翌週、俺は恐怖に怯えながらも学校に行った。 


それもそのはず。

土曜日の件を幼馴染に問い詰められると思うとやるせない。


あれだけ近くで僕の顔を見たんだ。

気づかれないはずがないのだ。


そしたら義妹を助けた日のように辛辣な言葉が飛んでくるに違いない。


そんな事を考えながら1人、通学路をあるいていると、目の前を清潔感のある黒髪ロングで身長の高い女の子が幼馴染と歩いていた。


この人こそ、クラスの3大美少女の1人にして頂点に君臨するお方、冷泉綾乃様だ。


家柄は旧財閥系企業のお嬢様でお金持ち。

人柄は真面目で品行方正。

成績は優秀でスポーツ万能。


さらにはクラス……いや、学校の美少女の頂点に君臨しそうなほどの美しさを持つ少女だ。


義妹が可憐であれば幼馴染は可愛い。そして、アイドル様に関して言えば……圧倒的な美を誇るのだ。


美少女のベクトルが違うからこそ、クラスでも3大美少女に祭り上げられるのも無理はない。


そんな彼女に通学路で会うなんてなんて幸運なんだろう。

さほど恋愛に興味のない俺でもアイドルの一挙手一投足は気になってしまうモノだ。


彼女たちの後ろを追い抜かないように、ゆっくりと歩きながら2人の様子を見る。


……いや、ストーカーちゃうからね。


けらけらと笑う幼馴染に反して、口元に手を当ててクスクス笑うアイドル様に周囲の視線が集まる。


やっぱり、生粋のお嬢様なんだろうな。

笑い方からして美しさがが違う。


幼馴染?ありゃだめだ。

アイドル様に比べたら月とすっぽんだよ!!


義妹を助けた日の言動から幼馴染に不信感を抱いた俺は、断然アイドル様を推す!!


義妹?言語道断だ!!


義妹と幼馴染の過去の発言を思い出すと、腹が立ってきて、拳を握りしめる。


だが、今日は心の平穏が保たれそうだ。

なんせアイドル様を見て癒されているんだから。


そうこうしていると、幼馴染が土曜日の話を持ち出してきた。


「そういえば土曜日ね、あたし運命の出会いをしたんだよ〜!!」

土曜日の事を嬉しそうに話す幼馴染にアイドル様は「まぁ……」と口に手を当てて驚いている。


その姿もどこかいじらしくて、美しい……。


「デパートの本屋さんで好きな作家さんのサイン会をがあったんだけど、そこにいたのが……幼馴染だったの!!」


「それは運命的ですね!!で、どうなさったんですか?」

アイドル様は嬉しそうに話す幼馴染の話に釘付けになっている。やっぱりお嬢様とはいえ人の恋沙汰は興味津々のようだ。


「あっちはまだ気付いていないみたいだけど、私は一瞬で分かったね!!カッコよくなってた〜!!」

頰を赤らめて話す幼馴染に俺は少し引く。


いや、こっちはその前から気づいていますが!?

むしろ、後ろにいるんだから声を掛けてこいよ!!


俺は幼馴染の発言に逐一ツッコミを入れる。


「カッコよくなってたんですか。」


「うん、写真とってるから見る〜?」

幼馴染は嬉しいそうにスマホを操作して写真をアイドル様に見せている。


「ねっ、かっこいいでしょ?」

嬉しそうに語る幼馴染を尻目にアイドル様はあまり興味がないのか首を傾げる。


「……う〜ん、そうですねぇ。私はあまり好みではないかもしれません。」


「え〜、爽やかでかっこいいじゃん。」

アイドル様の発言に不満げな声を上げる幼馴染の言葉は俺の耳には届かなかった。アイドル様の言葉がショックすぎたのだ。


「まぁ、爽やかといえば爽やかなのですが……完璧過ぎるというか、自意識過剰のように見えます。」

追い討ちをかける様にアイドル様は作家松平陸を否定する。


……いや、あれは萌生さんが印象をよくした方がいいって言ったから。


誰に言い訳をするでなくもなく、心の中で言い訳をする。そして、アイドル様の言葉がとどめになり、俺は2人の話を聞くのをやめ、足早に学校へと向かう。


……泣いてない、いや泣いてないのに涙が。

俺は半泣きになりながら、女の子の会話の闇を知り恐怖を覚える。


だが、俺はこの時はまだ知らなかった。

アイドル様と幼馴染の話には続きがあったのだ。


それは、俺が先に学校に行った後の幼馴染とアイドル様の会話だった。


「じゃあ、綾乃さんはどんな人が好みなのよ?」


「……う〜ん、どこか抜けてて可愛い人かな?」

アイドル様の発言に幼馴染は嫌そうな顔を浮かべる。


「冷泉さんって、ダメ男が好みなの?趣味悪い。」


「そんな訳じゃないよ。ただ、私の周りって完璧主義な人が多くて息が詰まると言うか……。」


「あぁ〜、冷泉さんってお嬢様だもんね。だったら海西とかどうなの?あの人、抜けてそうだし……」


知らないうちにアイドル様の恋のお相手の筆頭に上がるほど俺は抜けていない……はずなのだが。


「うーん、彼はちょっと違うかな。そもそも私には好きな人がいるし……。」


「えっ?冷泉さん、好きな人がいるの!?誰?誰?同じクラス?」

アイドル様の爆弾発言に興奮して食いつく幼馴染。

(なお、俺はすでに学校入りしています)


「う〜ん、同じ塾に通っていた人なんだけどね。この学校に行くって言うから一緒に勉強をしてたの。だけど、まだ彼とは会っていないから、もしかしたら落ちちゃったのかも……」

アイドル様の表情に暗い影が差す。


「ダメ男君だからね……。まっ、次の恋を探しなよ〜」


「そうですね……。あなたも幼馴染と頑張ってくださいね。会えるかどうかは分かりませんが……。」

幼馴染の助言に肩を落とすアイドル様は逆襲と言わんばかりに幼馴染の痛い所をつく。


その言葉に幼馴染も、「ちょっと〜。」というしかなかった。


……一方、その頃の俺はと言うと。


「ふぁっくちゅ!!」


「なんだ?そのくしゃみは?」


「あぁ……急に寒気がしてきたんだ。」


教室へとたどり着いた俺は、玄白の前で盛大にくしゃみをしていた。

幼馴染とアイドル様の噂の相手が俺だとつゆ知らず。

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