第35話 俺がクラスメイトに囲まれるはずがない

翌日、俺はすっきりとした髪型を軽くセットして家を出る。


本来なら寝癖があっても気にせず学校へ行っていたはずなのに、起きて早々義妹に出会したのだ。


そして、俺を見るなり「寝癖!!ちゃんと直しなさいよ!!」と、相変わらず強い口調で言ってきたが、いつもに比べて毒が少ない。


それどころか、朝一番から話しかけてくるなんて昨日までだったらあり得ない現実だ。


きっと他の3人に俺が義理の兄妹だと気づかれた事が原因だろう。クラス3大美少女の1人が隠キャと義理の兄妹だと知られた以上、まともな格好をしてくれなければ義妹の顔に泥を塗ってしまうからだろう。


だから髪は軽くセットをして、いつもの眼鏡をかける。


それにしても、顔が赤いのはなんでだろう?

風邪か?などと、早々に家から出て行く義妹の様子をみながら朝食を食べる。


いや、昨日からどうも様子が変だった。

クラス2大美少女+おまけが帰ってからも、事あるごとに視線を感じるし、何か言いたげな様子を見せていた。


いや、様子がおかしかったのは他の3人も同様だった。


まずは幼馴染。

俺がコンタクトをつけて戻った瞬間になぜかフリーズしてしまい、サイン会のことも忘れてふらふらとした様子で帰ってしまった。


そしてアイドル様。

髪を切る前から何故か表情が険しく、喜怒哀楽の怒と哀が交互に入れ替わっていた。彼女ほどの完璧人間がこの日に限ってポンコツのまま、寂しげな背中で自宅を後にしたのだ。


最後に一番不可解なのはギャルだ。

俺の事は全く興味を持っていなかったけど、パソコンを見た途端に脳のブレーカーが落ちていた。時折意識を取り戻し、俺の方を見るが何か言うわけでもなく再び意識が飛んでいくように見えた。


髪を切ったくらいで何が変わったと言うのだろう?


不可解な事が起きている事に変わりはないが、答えが分からないまま、俺は朝食を終えて自宅を後にする。


すっきりとした青空の中、俺は何か釈然としないまま学校へと向かう。


その道中、同じ学校の生徒達が同じ方向を目指して歩いて行くのだが、女子からの視線が痛い。

俺の姿を見ては何かひそひそと話をしてはこちらを向いていた。


……どこか変なところでもあるのかな?

と、幼馴染が切った髪を疑いながらも学校に着く。


校内でも女子達の視線が俺を刺す。

それも1人や2人ではない、道ゆく女子達の視線が痛いのだ。


男女比率としては2:8の割合で女子が圧倒的に多い中での視線は隠キャにとっては殺人行為に等しい。

隠れたくなる思いを堪えながらも、自分のクラスへと辿り着く。


俺が教室のドアを潜った瞬間、ざわついていた教室が音をなくす。そして、視線が俺一点に突き刺さる。


その視線にたじろいだ俺を尻目にクラスメイト達はひそひそと話を始める。


……なんだろう。俺、何か悪いことしたか?

クラスメイトの様子に戸惑っていると、背後から肩を叩く奴がいた。


「よう、陸。おはようさん!!なんだ、髪を切ったのか?さっぱりしちゃって!!」

背後を振り返ると、玄白が話しかけて来ていた。

その背後にはモブ太とサブ郎もいた。


「……ああ、おはよう。玄白、モブ、サブ。」

俺が返事をするとさっきまで鎮まり返っていたクラスメイトたちが一斉に「「「「「えっ」」」」と驚きの声を上げる。


その声にびっくりした俺はその場に固まる。

その様子をイケメン3人衆は楽しそうに笑いながら俺の肩を叩く。


「あははは!!陸、気にすんな気にすんな!!席につこうぜ!!」

と、玄白は俺の背中を押して席へと連行する。


そんな中、義妹がこちらを見ていたのに気がつき、

視線が重なる。すると、彼女はすぐに顔を机に伏せる。


「?」

その態度の理由がわからないまま、俺は席に着く。


「しっかし、陸!!急に髪を切るなんでどうしたんだよ?」

席についた玄白が俺に髪を切った理由を尋ねてきたので俺は玄白の方を向き理由を答える。


「いや、切りたくて切った訳じゃないんだけど、どうしても切らせて欲しいって言われたから。」

と言うと、幼馴染は後ろの方でびくっとして視線を泳がせる。


「へぇ〜、いいじゃん。やっぱ俺の見立てどおりだったな!!」


「なんの事だ?」


「なんでもないよ。それよりチャイムが鳴るぞ、前向いとけ!!」


「?」

玄白は意味深な言葉を残して、俺を黒板の方を向くように促す。


そして、担任が教室に入ってきて、授業が始まった。



休憩時間……、それは俺の地獄の始まりだった。

チャイムが鳴り、担任が教室から出て行くと、クラスメイト達が一斉に俺に集まってくる。


主に女子が……。


「どうしたの?急に髪切って〜。」や、「イメチェン?海西、かっこいいじゃん!!」と言った言葉があちこちから飛んでくる。


昨日までのスルー具合がまるで嘘のようだった。

髪を切っただけで掌を返す女子の多さに正直引いてしまう。


逆に、俺をこんな状況にした張本人達は揃って遠目から高みの見物とくる。アイドル様に至ってはなぜかご立腹の様子だ。


……昨日から一体なんやねん!!

恨み言の一つも溢したくなるが、黙ってその場をやり過ごす。


が、今までクラスメイトの注目を集めた事がなかったので、俺は目をまわしてしまっている。


すると、背後から玄白達がやって来た。


「お前ら、陸がそろそろ限界そうだからその辺にしておいてやれよ。」


……ドキッ☆おお、さすがは玄白!!天の神様、仏様!!

思わぬ助け舟に感動していると、クラスの女子の1人が「ええー、玄山くん、海西くんの素顔を知ってたの〜?」と、責めるような声で言ってくる。


「俺も昨日素顔を知ったところだ……。けど、こいつがイケメンって言うのは入学式の時から知っていたぜ!!」

と、俺に肩を組みながら言う。


……トゥクン☆

玄白の言葉に胸がときめいていると、クラスの女子の一部が「きゃーっ!!」と絶叫を上げる。


……このクラス、腐ってやがるぜ!!

と、思っていた刹那、ドサッと言う音が聞こえる。


……おいおい、いくら腐っているからって、気絶する事もないだろ。

そんな思いで音のした方の様子を伺うと、珍しく隣の席から動かないまま机に顔を伏せていた義妹が床に倒れていた。


「空!!」

その様子を見た俺は、慌てて床で気を失っている義妹の元へと駆け寄った。




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