ボッチ、少女を救う

川野マグロ(マグローK)

第1話

 僕は家族と不仲なだけでなく友だちまで居ない。

 父ほどの正義感や身体的な強靭さもなければ、母ほどの意志の強さもない。

 毎日目的意識もなくただ与えられた課題に置いていかれまいと必死に過ごす日々。

 そうは言っても特別レベルの高い組織に所属しているわけでもなく、世の中として平均の中の平均でそんな程度だ。

 僕はほとんど同じ日々を繰り返すように過ごしているだけ。

 生きているなんて言う方が周りに恥かもしれない。そんな思考も自分の中にはあった。

 今日も一人の学校から帰り道、歩き慣れた商店街を授業について思い出しながら歩いていると周りがいつもより騒がしいことに気づいた。

 どうせ有名人か何かだろうとテレビにもさほど興味のない僕は素通りしようとするが人だかりが邪魔で通れない。

 ここまで来ると事態を理解せずに入られず人々の視線の先を凝視した。

 先には黒ずくめで顔がよく見えず何やら包丁らしきものをこちらへ向けて威嚇している男らしき人物がいる。

 女性を人質にとっているようで周囲の人々もむやみに動けず今の状況になっていることが理解できた。

 声に耳を傾けると警察の到着の遅れに対しての怒りが聞いて取れる。

 自分が行かないといけないのか?

 しかし、こんなひ弱な自分が行ったところで何ができる?

 女性に危険が及びただただ迷惑を掛けるだけではないのか?

 ただ、何もしないよりかはずっとマシなのでは?

 少しうつむき、あーでもないこーでもない、と自問自答を繰り返し、とりあえず近くの交番まで一を呼びに行こうと心に決めた時、僕は見知らぬ場所に居た。

 商店街は飽きるほど歩き慣れており、多少の内装の変化くらいはすぐに日常へと変わる寂れた施設の中にこんな薄暗い場所があっただろうか? というのが最初の感想だった。

 それよりも自分はうつむいていただけで何もウロウロしていたわけではないのだ。とすると、場所が切り替わっている方がおかしいだろう。

 僕はいつの間にか気を失ってしまったのか?

「それは違うよ」

 突然の自分の心の中の言葉の否定に周囲を見回した。しかし、中はやはり見回せるほどの明るさではなく人の気配を感じ取ることはできなかった。

「誰だ?」

「年上にはさ、敬語を使おうよ」

 そう言って姿を見せたのは声の威圧感とはかけ離れた印象の若い男だった。

「誰だすか?」

「まあ、今回はそんなところで許してやろうかな」

 言いつつ僕の周りをくるくる回る彼はしかし警戒心を持てるほどの相手ではなかった。理由は自分でもわからない。だが、この人は人を信用させる何かがある。と、直感的に思った。

「君、名前は?」

「尋ねる前に自分が名乗ってください」

「そうだね。俺は、ラ・マ」

「ラマ? 何でラマ?」

「だから敬語を……まあいいさ、ラ・マだ間違えるな。ラマではない」

「ラ・マさんは何者ですか?」

「俺は名乗ったのだから君も名乗るべきじゃないかな?」

「あ、そうか。僕は、二戸部勇気です」

「勇気かそうか……君にぴったりじゃないか」

「そうですかね。僕は嫌いです」

 自分としては、勇気という名前は嫌いだ。自分とは決して違う。かけ離れたものだから。僕には勇気がないから。

「そんなことはないぞ」

 ラ・マさんは相変わらず僕の周りを回りながら真剣な表情で僕の心理を否定した。それはまるで、心を読めるかのように。

「俺は心を読めるぞ」

「え?」

「だから、わざわざ口に出さなくてもいいし、隠すこともできない」

 僕はその言葉に、うわまじか、と思い。苦笑いを浮かべることしかできなかった。本物の超能力者は意外とサラッとしていた。

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