第32話

「今日はこの辺にしておきましょう」

「そうだね」

 剣をもらってから一ヶ月が過ぎた。

 最近では日の長さが変わったような気がする。

 剣をもらってからも自分は自分を信じた。

 むしろ、それ以降が健康的に行動しているように僕は思う。

 ナビにトレーニングのコーチをしてもらったり、活動し過ぎを防ぐために積極的に知らせのないときは休むようにしたりしている。

「飲み物です」

「ありがとう」

 スポーツドリンクを一気に飲み、プハーッと息を吐き出す。

「うまい」

「ありがとうございます」

「誰が……」

 今、自分が言ってはいけないことを言いそうになったことにナビの視線から気づき思わず口をつぐんだ。

「さ、帰りましょうか」

「そうしよう」

 僕らは今日のトレーニングを終えて歩き出した。

 たまたま、トレーニングの場所から商店街を通ることになった。

 今となっては特別嫌な場所ではない。

 最近の自分の活動の再開や時間の経過が僕への嫌悪感を和らげたのだと思う。

「勇気くん! こないだは盗んでたやつ止めてくれてありがとうね。これもらってって」

「いや、こんなに、受け取れませんよ」

「あんた、おとこだろう? 女の子に持たせるのかい?」

「いや、あの、そういう訳じゃ」

「ありがとうございます。もらっておきましょう」

「え、えーと。ありがとうございます!」

「はいよ」

 こんなことは稀だ。

「あ、こないだはありがとう。少ないけど」

「おうあ、受け取れませんって」

「おれのはだめってか」

「いや、そういう訳じゃないんですって」

「そうか、手がいっぱいか。じゃあ、なみちゃん。後で渡しといてくれ」

「はい。ありがとうございます」

「それじゃ」

 こんなことは本当に稀だ。

 しかし、これが、僕が人々の罵倒を克服し自分の姿を見せてきたことによるものだと思っている。

 人は見えないところを判断できない。

 だから、見えるところで判断するしかない。

 見えない部分でも判断できるのなんて仲のいい関係でも難しいことだろう。

「そうですね」

「だろ?」

 ナビの同意に僕は嬉しくなって、おばちゃんからもらったナスを落としそうになった。

「おっとっと」

 なんとかとどめ歩みを再開する。

 だからこそ僕は自分の行動で自分を変えたのだ。

 自分の行動でしか自分を変えられない。皆、自分のことで忙しいのだ。

 そのことが最近わかってきた気がする。

 しかし、わからないこともある。

 あの山村と言った男はなぜ僕を貶めようとしたのか?

 確かに少女に婚約者が居るのなら男との関わりを減らすのは行動としておかしくないのかもしれない。

 たとえ、まだ僕よりも幼い少女だったとしても。

 しかし、そのために僕に罵倒の嵐を浴びせかけて、傷つける必要はあったのだろうか?

 そんな、時間のかかるような周囲の人々への呼びかけまですることだったのか?

 自分にはわからなかった。

「考えなくていいですよ」

「え?」

「わからなくていいんです。そんなこと」

「ナビ」

 ナビは僕の思考を遮るように喋りだした。

「わからないことで、辛いことなら、別のことを考えましょう。それに、今日はお母様と一緒に渡しも料理するんですよ。楽しみにしていてください」

「うん。ありがとう」

「ナビですから」

 本当に僕はナビに助けられてばっかりだ。

 しかし、ナビの言葉はいつも温かかった。

 ナビの姿は逆光の中でも美しかった。

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