第47話
言い訳を考えていた。
今の状況をごまかせるような盛大な言い訳だ。
男が情けなく女性の背中に意識のある状態でおぶられていることを説明する何かだ。
そんな事を考えていても時は戻らず、道は少しずつ公園へと近づいていくばかりだ。
「意外と軽いですね」
「え?」
ナビは不意に何かを言い出した。
「ですから、意外と軽いですねって」
「僕が?」
「そうです」
確かに背負えば軽い重いはわかるものだろう。しかし、軽いですねってそれは、
「どう受け取っていいのか?」
「別にお好きなように」
ふふふ、と笑ったナビ。
その、ナビのふっかけてきた話題に意識がそれてしまい。時間が歪んだようにあっという間に公園へと着いてしまった。
自分は結局言い訳など考えることはできなかった。
「こんにちは、なみさん。急にお呼び出しして申し訳ありません」
「いえ、いいんですよ」
最初に話しかけてきたのは山村だった。そして、しっかりと元気そうな優美ちゃんの姿を視認することができた。
「ところで、少年は?」
「少年? ああ、それは」
「ちょっと、おろして」
「あ、はい……この、今降りたのが勇気さんです」
「え?」
いつから僕のことを少年と呼ぶようになったのかは知らないが、今はそんなことより、
「あっ」
「優美ちゃん。元気で良かった」
「お姉さん誰?」
困惑した。混乱した。言葉を理解できなかった。
せっかく、山村を出し抜いて優美ちゃんに近づけたのに、当の本人に気づいてもらえないのだ。
しかし、それも仕方のないことだろう。忘れていたが、自分は今別の体になっているのだ。
「あ、え、えーと、そのー」
「あっ!」
と優美ちゃんは何かに気づいたように指さした。
その先は僕の左手首。そう、砕けてしまっても未だつけている。石だ。
「その石は、お姉さん。勇気さんなの?」
「そ、そうだよ! よくわかったね」
「うん。その石は勇気さんのものだって覚えてるから」
良かった。なんだかんだ、自分を説明する物を所持していて、そんな安心感を抱いた。
そこでようやく、自分はナビに背負われている言い訳よりも自分を二戸部勇気であると証明することのほうが大事だったのだと気づいた。
が、なんとかなったので問題なかろう。
「本当に良かったよ無事で」
「クマさんになれる?」
「え?」
石の存在で自分がバレていた。無我夢中で優美ちゃんを助け出そうとしていて気づいていなかったが、そうだ。僕はクマ人間の状態で優美ちゃんを助けた。だから、クマ人間であるということは世間一般以上に理解されているのだ。
「ごめん。もうなれないみたいなんだ」
「そっか……」
優美ちゃんはとても悲しそうに俯いた。
僕はクマ人間として優美ちゃんにモフモフさせてあげることができなかった。
「でも、いいよ。あの時、少しモフモフできたから」
「そっか、なら、良かった」
「うーんでも……」
「何?」
優美ちゃんにはまだ何か気になることがあるようだった。
隠そうとしているわけではなく自分に聞かれようとしている態度だと思った。
「なんで、女の人の姿なの?」
「あ、それは、ちょっと、この、石割っちゃったから」
「それで?」
「そう」
僕はこれか、と思った。ラ・マさんが僕の相手をするのに抵抗があるような態度を取ることがあった理由に気づいた。
「あと、なんで、女の人の姿だからって、スカートとかはいてるの?」
「そ、それは、その、もと着てた服がブカブカで着れなくって」
「他にも、なんで、なみさんに背負われてきたの?」
「ぎ、あ、えーと……」
結局尋ねられてしまった問、思いつかなかった答え。
確かに質問攻めに合うのはかなり疲れる。隠したいことが多ければ多いほどに。
しかし、そこで割って入ってきたのはナビだった。
「信頼ですよ。し・ん・ら・い」
その瞬間二人の女性の間に火花が散ったのが見えた気がした。
「そろそろ本題に入ってもいいでしょうか?」
山村が口を挟んでくれたおかげでそれ以上の悪化を免れることができた。
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