第52話
しかし、現実はそうではなかった。
予想だにしないことが起こった。
まず、人が多かった。情報では二戸部勇気は入院していることから多くても少女と山村という男の2人のはずだった。
が、少女と山村だけでなく、少女の両親に加えて、なみという女の子と見たことのない女の子がいた。
そんな状況にも関わらず、オレは自分の足を止めることなく歩を進めその場へ割り込んだ。
「すみません! 遅れました!」
「おや、お客さん?」
「いえ、私は呼んでいません」
何やら、悟さんと山村がやり取りをしている。
タイミングからして新たにやってきた男女二人組についてだろう。
「どなたかな?」
そう尋ねたのは悟さんだった。
「二戸部勇気と獅童なみです」
「え?」
幾重もの驚きの声があがった。
それはそのはずだろう。二戸部勇気は僕であり、獅童なみは僕のナビだ。
そして、そのどちらもが今この場所に立っている。
「それはおかしい。僕が二戸部勇気だ」
「そうですよ。こっちが、本物です。それに私が獅童なみです」
しかし、その言葉には一人を除いて驚いた様子はなかった。
獅童なみとして紹介された女の子は驚きを表情で表していた。
そのうえ自分の名前を騙った男に耳打ちをしている。
「……ちょっと聞いてないんだけど……」
「……大丈夫だよ……そこに立っていてくれれば……」
「……本当ね……?」
「……ああ……」
作戦会議が終わったのか偽物の僕は深呼吸をした。
「僕が本物です。だって、二戸部勇気は男のはずでしょう? それに石だってここにある」
演技のようにそこまで言い切った偽物の右手首には赤色の石が確かにあった。
「で、でも。勇気さんのは青だった」
そう声をあげてくれたのは優美ちゃんだった。
確かにそのとおりだ。僕の左手首に着けている石は青い。
だから、その言葉に合わせて僕は左手首を掲げた。
「ふむ、確かに話によれば二戸部勇気くんは男の子のはずなんだよね。ただ、石は青。そうだね? 優美?」
「うん」
「場所はわかる?」
「場所もあっちの勇気さんのほうが合ってる」
「そうか」
そのやり取りは佐藤父子によるものだった。
このやりとりだけなら、どちらが二戸部勇気かは五分ということになりそうだと思った。
だが、
「性別はそう、変わるものじゃない。今は男の子を信じようか」
「そんな……」
優美ちゃんは父を説得できなかったことにショックを受けた様子だった。
そして、自分も今の見た目がものすごく不利を招いていることを認識していた。証拠が弱い。
「旦那様! いいでしょうか!」
「どうした? 山村? 何かあったか?」
突然口を挟んだのは以外にも山村だった。
自分としてはそろそろナビの我慢の限界が来るかと思っていたが、
「……!」
そこまで思ったところで横から何者かに肘で突かれたため考えるのをやめた。
「はい。私は獅童なみさんと会っているのですが、こちらが本人です」
やはり指したのは僕の隣で僕に対しての攻撃姿勢をとっていた方のナビだった。
「それを示すものは?」
「示すもの……」
そこで言いよどんでしまった山村に対して心からのため息をついた。
「ありますよ。連絡先です。
「ほう」
面白いと言った様子の悟さんに支持されて、僕の言葉でやっと思い出した様子の山村は携帯電話を取り出し、ナビにかけた。
鳴ったのはやっと僕への攻撃を集中が集まったことで辞めたナビの方だった。
「これで証明できたのでは?」
山村が安堵の様子を見せたが、悟さんは納得していないようだった。
「やっと五分といったところかな」
僕はこの人はきっとキツイ方の人だと思った。
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