第51話

 オレがここにやってきたのは他でもない。親父の指示だ。

 父はどうやら仕事に失敗したらしい。そのせいかはわからないが人が変わったように生活が変わってしまった。

 今までなら考えられない表立った人助けを積極的に行っている。

 それはもう、

「耳に入ったボランティアやら目に入った困っている人を助けるなんてのは当たり前だ」

 なんて言い出してしまっているのだから、息子である自分としても驚きだ。

 そこまで目立つ行動をしていてはいつか自分の悪行がバレるだろうにとも思っているが、指摘する前に自覚はしていることだろう。

 なぜ、そう思うか? それはかつての部下たちも一緒になって汗水流して人助けに邁進しているからだ。

 どれだけ今いいことをしようとも過去を洗い流すことはできないとは思うが、過去の行動が今を決定するとは思わない。本人がどうにかしたくて行動しているのなら自分には止める理由はない。

 さて、話を戻そうか、そんな親父が人が変わったようになる前に、本当に最後の言葉として言い残したことがあった。

「写真の少女を連れてこい」

 それ以降、親父はそのことをどう思っているかは知らない。

 むしろ、そんなことを言っておいて自分は人様のためになることをしているのが自分としてはとても恐ろしいのだ。

 上っ面はいい人を装い、裏で悪行を続ける気なのかは定かではない。

 だから、恐怖で自分は行動を起こしていた。

 必要な情報は少女の写真がど真ん中に置かれていた机の周囲から集められるだけ集めた。

 少女の名前、佐藤優美。

 少女の父の名、佐藤悟。

 少女の母の名、佐藤明美。

 家政夫、山村…………。

 なぜか、周囲で噂されているクマ人間なる都市伝説のことやよくあっている人間たちの情報まで一緒になっていたが、何かのヒントになるかもしれないと考え初期情報はそこで仕入れ終えた。


 そこから先はまずはインターネットを使った。

「お、あったあった」

 まずはなぜ都市伝説なぞが一緒くたにされていたのかが知りたく調べてみた。

 すると自分の持っている情報が合致した。

 どうやら、二戸部勇気という少女とよく会う男がクマ人間と発覚したらしい。

 嘘か本当かはわからないが、情報の出た日付を考えると親父は、

「仮に気づいていたとすればニュースとして大々的にバレてしまう前から気づいていたということになる」

 そこで、自分の口から思わず言葉が出ていたことに気づいた。

 親父にここまでの情報収集能力があったとは知らなかった。

 自分は息子として親父のことを何も知らなかったことを知った瞬間だった。

 そして、今までの自分の全ては親父にバレていたのではないかという不安が生まれた。

 しかし、今はそんなことを考えても仕方がない。頭を振り思考を切り替えて再びインターネットへと戻る。

 だが、残念なことにそれ以外のまともそうな情報はすでに調べ上げられていることにまとめられていたために新情報を得ることにはつながらなかった。


 近くにはすんでいるが全く知り合いでない存在を聞いて回るのは流石に同年代でも気が引けたが、話題が大きくなっていることが自分を一野次馬として隠してくれた。

 二戸部勇気になりすまし、少女に接近すればいい。

 どうも、同じような時間にいつも会っているということになっていたから、その時間を狙えば年下の少女などさらうのは楽勝だろうと思っていた。

 だからこそ、二戸部勇気の情報が欲しかった。

 普段何をしているのか。

 どこで過ごしているのか。

 どんな人と一緒にいるのか。

 何でも良かった。

 とにかく失敗する確率を下げるために二度目はないと思い準備に余念を残さないための気配りをした。

 失敗した場合自分が無事でいられる保証はない。

「すみません」

「はい?」

「あの、二戸部勇気くんってどんな人ですか?」

「ああ、あなたもそういうことを聞いてる人?」

「ええ、身近に有名人が居ると知りたくなってしまって」

 自分としてはそんな気持ちは全く無い。しかし、近づくには嘘も方便。そう思い嘘をついた。それだけだ。

「そういえば、あんた。見かけない顔だね」

「え? ああ、少し遠くにすんでて、同じ学校ってわけではないので本人には聞けなくて」

「なるほどね。でも、良かったかもね」

 そんな、おばさんの言葉に自分はぎょっとした。

 二戸部勇気はそんなに危険なやつなのか? と警戒した。

 ただ、現実はそうではなかった。

「どうしてですか?」

「言っていいのかわからないけど、二戸部くんね。入院しているらしいの」

「入院?」

「そう。なんか、怪我かなにかって言っていた気がするけど、そこまではわからない」

「そうですか。ちなみに場所は……?」

「そうねぇ、ごめんなさい。わからないわ」

「そうですか……。ありがとうございました」

 最初に感覚をつかめばあとは大丈夫だと油断した自分が馬鹿だったが、これ以降はおばさんたちの話を聞くばかりで特別役に立つ情報は少なかった。

 しかし、山村という人物は二戸部勇気を嫌っているということだけは参考になった。


 残りの仕上げとして見た目の問題となみという女の子と一緒に居るという問題が残った。

 見た目に関しては今までも、自身を持ちおどおどしていなければその場でバレたことはないため雰囲気をどう似せるか程度の問題でしかないと思っている。

 後はその雰囲気作りのためのなみという女の子だ。

 さて、どうしたものか、と考えた。

 親父には話していないがガールフレンドがオレには居る。

 だが、オレはガールフレンドを道具のように使いたいとは思わない。

 かといって、1人で行動するのは危険だと考えられる。

 しかし、知らない女の子と一緒というのは気が引けた。

 自分はその選択に一番悩んだ。

 時折、

「ぐぁあぁあ!」

「なあぁぁ!」

 などとうなりながら考えた末にガールフレンドに手伝ってもらうことを決めた。

 連絡の結果は待つ間の不安感をあざ笑うかのようにOKをもらうことができた。

 準備は整った。

 あとは現場でどうにかするだけだ。

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