第50話
無音だった。
存在に気づくことがなかった。
本来ならありえないであろう出来事も自分には納得できる理由があった。
ラ・マさんだ。
彼のもの、彼の力は、本人は魔法ではないと言っていたが、自分からすれば十分魔法の類だった。
人の姿を男から女へ、人からクマ人間へ帰るだけでなく。
場所を変える。未だ、人を動かしているのか、場所を動かしているのかはわからないが、気づくとラ・マさんの店にいる。
そして、人の悪意を切る剣。
それらのものは、現実を超越している。そう思っていた。
「またの機会では失礼だろう。何より時間がもったいない」
「そうよ~時間は有限よ~」
だから、たとえ、声が聞こえてきたのは上、空だからといって、今の現実を自分の夢だとすることはできない。
無音で空を飛ぶヘリコプターのようなものが実在しようと、自分にとって現実であることに変わりはないのだ。
シュタッ、と効果音のなりそうな要領で空のヘリコプターのような無音飛行機から飛び降りてきた2人はとても若々しかった。
「パパっ! ママっ!」
と言って、優美ちゃんが飛びついていく様子から、2人が優美ちゃんの両親であることは想像にかたくなかった。
山村の話から考えれば、一ヶ月ぶり、久しぶりの家族の再開というわけだ。
優美ちゃんの両親が何をしているかはわからないが、仕事の内容が、優美ちゃんを海外で連れ回すことが、ラ・マさんのアイテムを使っても解決できないほどのことをしているのだろう。というのは自分の推測だった。
しかし、そのような、特別な人間というオーラがあるわけでもなく、人混みに紛れてしまえばすぐに見つけられなくなってしまいそうな雰囲気だった。
それでも、山村が自ら志願して2人の助けになりたいと言うのはよくわかった。
彼らが、たとえ、優美ちゃんの親でなくても自分もまだ初対面で何も知らないにもかかわらず力になりたい。そんな風に思っているからだ。
家族の一時の団らんが済むと優美ちゃんの両親の目は僕とナビに向けられた。
一瞬、場の空気が凍ったような、錯覚があった。冷たいものが僕の頬を撫でるような感覚。
ただ、それも一瞬だった。確か、悟さんと言った。優美ちゃんのお父さんは一瞬、目を見開き僕とナビを見たときだけ、今までにないものを発した。
それが何なのかを今の自分では理解できなかったが、しかし、これが、僕のような拾われ者として、ラ・マさんを知ったものではなく、ラ・マさんと商売のやり取りをしている存在か、という感慨はあった。
「男の子と女の子と聞いていたのだが、違ったのかな?」
「いえ、旦那様。こちらの少女は今は見た目は諸事情あって少女のものですが、少年です」
「ふむ。ふむ」
「信じられませんよね」
「いーや」
余裕を持ち柔和な表情で、しかし、見定めるような目を僕に向けてくる悟さんは、ただ、と、
「信じるが、証拠は欲しい」
そう述べた。
確かに僕だってそう思うはずだ。信じるにはその根拠となるものが欲しくなるだろう。
優美ちゃんは左手首の石で気づいてくれ、山村がそれを信じてくれたから良かったが、今はそうではないのだ。
しかし、自分は今、自分が男であることを証明する術を持ち合わせていない。
「すみません! 遅れました!」
自分が自分を証明することに悩んでいると、突然見覚えのない男の子と女の子がやってきた。
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