第49話
そんな状態がなかったように、
「では、最後に」
と山村は立ち上がって要件を告げようとした。
「え、もう、優美ちゃんとお別れ?」
「まあ、聞け」
本当に切り替えの早い山村という人間は、さっきまでの涙が嘘のようにテキパキとした様子で、説明を始めた。
「旦那様が少年に会いたいと言っていた。時間はこちらが指定する。早めの連絡を心がけるが、いつになるかはわからない」
「え、じゃあ、また会えるの?」
「そういうことだ」
やったー、と両足を上げて飛び上がりそうになってから、そんなことを今の状況、今の自分がしたら、大事な何かを失う気がした。
そのため、
「……ぅよし!」
という、変な形でガッツポーズをしたため、他の3人に数分間見られることとなった。
「な、なんだよ」
「いや、それでは」
「え、なんの反応もないの? ただ見てただけ?」
自分としても恥ずかしくなって、どうにか場の空気を変えようとしたが、
「そうだが?」
という山村の一言に一蹴されて、
「そうですか……」
とごまかそうとすることを諦めた。
ナビは無言で、左手を僕の肩に乗せ、うなずいていた。
一体僕はどうしてこんな事になっているのか、全て僕のせいだが、今日は恥ずかしいことばかりで、たまらない気持ちになった。
「で、どこまで、話したか」
「僕に優美ちゃんのお父さんが会いたいってとこまで」
「そうか、まあ、もう、それだけだ。今日はありがとう」
自分でも面白いくらいに感情が行ったり来たりしているのがわかった。
さっきまでの恥ずかしさなど、どうでもいいことはないが、あまり気にならないくらいに、急に胸が締め付けられるような苦しさがあった。
優美ちゃんと次いつ会えるのかがわからない。
その事実がやはり、会えると言えど、自分に悲しみをもたらす。
「それでは、また」
「はい。また……」
「またね。優美ちゃん。山村さん」
「またね~」
思っていたよりも他の3人はどこかさっぱりしていた。
きっとこれからは、公園で再び会うこともできるだろう。そんな、淡い期待を抱いて、優美ちゃんと山村に背を向けたその時だった。
「またの機会、そんなこと言っては失礼だろう」
「そうよ~」
声が聞こえてきたのは上、空の方向だった。
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