第53話

 悟さんの本題に未だはいることなく僕が二戸部勇気ということの証明を続けている。

 僕には一応とっておきの秘策がある。あることにはあるが、本当に秘策中の秘策だ。

 自滅して自分の正体を明かすことになってしまう。

 しかし、今の様子だともう切れるカードはどちらも出し切ってしまったようだ。

 数分間無言のまま時が経っているだけになってきた。

 にも関わらず偽物はどこか勝ち誇ったような顔をしているのが腹立たしい。

「ねぇ、そろそろどちらかに決めたら?」

 そんな言葉を夫へかけたのは悟さんの奥さん。優美ちゃんのお母さんだ。

「そうだね。では」

 そこまで来て僕はラストカードを出すことを決めた。

「ちょっと待って下さい!」

「何かな?」

「もう少し時間を下さい。そうすれば僕が本物と証明できます」

「無理ですよ悟さん! あいつが偽物だ! ただの時間稼ぎとしか思えない!」

 悟さんは偽物の言葉に無言でうなずいた上で僕に視線を向けてきた。

 その目から僕は一瞬だけのチャンスを与えてもらったと判断した。

 偽物の威勢の良さはここで潰してしまえ!

「へ、変ッ!」

「そんなに焦るものじゃないよ」

 僕の一世一代の2回目のルール違反を防いだのはルールを作った者。ラ・マさんだった。

「え、ら、ラ・マさん!? なんで?」

「やっぱり、ここまで追い詰めてあげれば来てくれると思っていたんですよ」

「ははっ! やはり、誘い出されてしまったか!」

 穏やかな笑顔を浮かべるラ・マさん。

 子供のような表情に変わった悟さん。

 僕はなぜ、ここへラ・マさんがやってきたのか理解できなかった。

 それならば、他の特に偽物には今の状況が、宙から急に人が出てくる現象が現実のものとは捉えられないだろうと思った。

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