第54話
自分の身を守れるのは自分だけ、そして、再三気をつけろと言われていたにもかかわらず自分は忠告を無視し、ペナルティがかぶさるのを恐れずに変身して自分がラ・マさんから力をもらった存在と証明すればいいとずっとポケットにしまっていたステッキを取り出したのだ。
こんなもの使ったら自分が自分でいられるかさえ定かではない。
しかし、偽物が本物であるという事になってしまってはいけない。それだけは防がなくてはいけないという予感があった。
だが、ギリギリまで使うことはできなかった上に、理由はわからないがラ・マさんの登場によってペナルティを受けずに済みそうなことは自分にとって幸いだった。
ペナルティだけでなく変身そのものをしなかったこともラッキーだ。
だが、それ以上の驚きは、ラ・マさんと悟さんが旧知の仲の様に親しげなことだ。
あくまで、聞いていたドライなビジネスパートナーといった印象を受けていたのだ。勝手に。
今、目の前で見ていることが現実なら、そんな、ドライな関係というよりも古くからの友、いや、親友と言ったほうがしっくりくるようなまるでこれから遊び始めるような印象を受ける。フラットで温かみにあふれている。
「まさかここまで追い込んでくれるとは思ってなかったよ」
「そう言ってくれるとありがたいが、女の子2人がいたときは本当に驚いたんだよ?」
「その言葉も本当かどうか?」
「本当だって!」
しきりに話しては笑っているため、本題へ移ることを切り出せない。
僕としては何度命を救われたかと行った存在のためそんな事はできない。
「ラ・マさんのあんな姿知ってた?」
「いいえ、知りませんでした」
こんなことをナビとこそこそ話すことぐらいしかできない。
空気が変わったのは優美ちゃんのお母さんが、
「そろそろ」
と言った時だった。
何かあるのか2人は途端に怯えたように、悟さんはさっき優美ちゃんのお母さんに促されたときはそんな様子はなかったにもかかわらず、話を止めた。
なぜ、怯えた様子なのかは気になるが今はそれどころではない。
「さ、さあ本題に入るとしようか」
「そ、そうだな」
悟さんとラ・マさんはお互いに確かめ合うように言葉を交わした。
ラ・マさんは一歩一歩着実に歩を進め僕の前に立った。
そのときにはいつもどおりの目つき、怯えなど感じさせない掴みどころがない表情。
「ステッキを」
ラ・マさんのその言葉で、下げていた左手を胸の前まで上げる。
ラ・マさんはステッキに手を当てて目をつぶった。
クマ人間になっていない期間は体感的にはそんなに過去のものではないはずだ。
しかし、とても懐かしく温かいものに包まれる感覚を抱きながら僕の視界は白く染まり感覚が少しずつ少しずつ遠くなっていった。
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