第17話

 ある日、話題になったのは僕の変身した姿についてだった。

「あのクマ人間は居ると思う?」

 少女はそう僕に問うのだ。

「さあ、どうだろうね。見た人がいるから噂になるんじゃない?」

 僕は自分が変身しているとは言えなかった。言える訳がなかった。今でも自分であることに変わりないし、言ったらラ・マさんに何されるかわかったものではない。

 ちなみに、クマ人間とは僕の変身した姿のことだ。

 最初は雪男だの、ビッグフットだの、何だのってまとまりがなかったのだが、いつの頃からかクマ人間で定着していた。

 初めてその名を聞いたときは、自分の感覚が正しいことにホッとしてもいた。

「私は居ると思うの」

 少女は真剣に僕の目を見ていった。

「どうして?」

「クマ人間はヒーローだもの」

「わからないよ? 何か企んでるかもしれない」

「うん。でも、ヒーローであってほしい。そして、いつか触らせてもらうの」

 確かにこのことも自分では知覚していなかったが、クマ人間をモフりたい人達が多いようなのだ。

 いつだか、触られた記憶がないわけではないが、自分としては変身しているときは手の感覚も変わっているため触ったところでどうというわけではないためよくわからない。

「そうだね。きっと叶うよ」

「そうだといいな」

 これでも僕としては細心の注意を払って会話していた。

 これ以来クマ人間が話題に登ったことはないことが自分にとっての救いだった。

 ウソを付くわけではないのだがどこまでが一般認識でどこからが本人しかわからないのかは自分ではもうわからない。

 しかし、危機を脱したわけではなかった。

 話題は僕の左手首へと移る。

「そういえば、この石、きれいよね」

「ありがとう」

「いくらするの?」

 そんな言葉に一瞬どうしようか悩んだが、ありのままを話せるだけ話すことを選んだ。

「貰い物なんだ。だから、わからない」

「そっか……」

 少女は寂しそうな顔をしていた。

 その顔は最初に見たときの顔に似ていた。

 まるで、何か大切なものを亡くしてしまったかのような寂しい顔だった。

 この日はそれ以上会話することはなかった。

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