第18話

「私も行きます」

「いや、別に一人で大丈夫だって」

「私が気になっているのです」

 とうとう、見回り渡渉した散歩がただ少女に会いに行っているだけだとバレた。

 原因はよく考えずともわかる。

 その場に留まりすぎたのだ。しかも、場所は公園だ。遊びに行っているだけだと思われて当然だった。

「いいでしょ? 息抜きくらい」

「それなら私が一緒でも問題ないでしょう」

「……く……」

「一緒に行きましょう」

 それにこんなに強引なナビは始めてだった。

 なぜ、その場に留まっているのがバレたのか?

 それは、心の中が筒抜けなのが問題らしい。

 内容がバレていれば翌日から即座にバレていたのだろうがそうでなかった理由はナビのテレパシーとも言うべき能力はあくまで、ラ・マさんの簡易版でしかないからだ。

 ラ・マさんの力は僕がどこに居ても同じ音量で聞こえるらしい。

 そのため、いつも少女に会いに行っていたことはバレていたはずだがやはり、音沙汰なかった。

 ナビの能力は、距離が離れるごとに精度が落ち、最終的には方角しかわからなくなるらしい。

 そのため、家と公園の距離では心の中まではわからなかったわけだ。

 最初は付かず離れずだったナビも必要最低限の連絡事以外はナビが自由に過ごしている。

「監視はどうした?」

 と言いたいが、言って厳しくなるよりも放置でいいかというのが僕の認識だった。

 しかし、もうバレてしまった。気づかれてしまった。

 公園へ着くと少女は明らかに不満そうな顔をした。

 相変わらず、僕も少女も同じ時間に公園に来ていて暇なのだなと口にするタイミングではなかった。

「「だれ」」

 それはいつにもまして低い二人の女性の声だった。

 その疑問はもっともだ。どちらも初対面で抱く感想として適切だろう。

 そんな判断を思考の角に置きどうしようかと考えた。

 何が最善択か。

「「どうせ」」

 となぜか息の合ったままの言葉は、

「「彼女なんでしょ!」」

 というところまで続いた。

「「え?」」

 驚いた声も同時だった。

 そこからは僕が互いに紹介した。

「こっちはナビ。なんていうか」

「勇気さんのサポーターです」

「そう。そんな感じ」

「勇気っていうんだ」

「そう言えば名乗ってなかったね」

 自分が今までただ話していただけなことに今気づいた。

 名前を呼ぶということにそもそも慣れていなかったからか無意識的に避けていたのか互いに名前を知らなかった。

「じゃあ、僕も自己紹介。僕は、二戸部勇気。よろしく」

「よろしくおねがいします。私は佐藤優美です」

「だそうです。ナビ。お互い満足ですか?」

「ええ」

「はい」

 そこからは僕は完全に部外者だった。

「勇気さんが優美さんと会うために毎日出かけていたことがよくわかりました」

「勇気さんがこんなきれいなお姉さんと一緒だとよくわかりました」

「「ねぇー」」

 僕はただ二人の会話を少し遠くから眺めていただけだった。

 なんとなく罪悪感を感じていた。

 別に自分でも隠していた訳ではなかった。それに、別に知られても構わたなかったのだ。

 だが、それを話していなかった。しかも、自分は名乗ってもいなかった。

 女性たちに白い目で見られても当然のことをしたのかもしれない。

 今日は特に時間が長く感じた。

 いつも少女と過ごす時間はあっという間に過ぎてしまうのに、今日は無限にも等しい時間のように感じた。

 ただ、ナビの笑顔も、優美ちゃんの笑顔も見ているだけで幸せになれた。それだけで苦痛ではなかった。

「またねー」

「うん。また」

「まてね」

「……」

 帰りもナビにも優美ちゃんにも徹底的に無視されてしまった。

 ナビには帰り道でも帰ってからも何を言っても反応が帰ってこずことの重大さを認識させられた。

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