第19話

 翌日。

 僕は朝から嫌な予感がしていた。

 珍しく朝から、

「悪者です」

 というナビの声を聞かずに起きた朝だったからだ。

 なにかあるように感じていた。

 ずっと、一日中なにかあるのではないか? と思って過ごしていた。

 しかし、学校へ行く間も、学校へ行ってからも、その帰り道まで、何もなかった。むしろ安全すぎたとも言えるくらいだ。

 静かでひっそりとしていたわけでもなく、全員が馬鹿騒ぎしていたわけでもない。当たり前の日常、切り取られたいつもの情景。

 そう考えれば別に何らおかしなことはなかった。

 むしろ、自分が左手首につけられて石の力で変身する前に求めていた光景かもしれない。

 朝は、

「おはよう」

 といえば、

「おはよう」

 と両親やナビから返事が帰ってくる。

 朝食の時も、

「今日は数学の授業があるんだよ」

「良かったじゃん。好きでしょ? 数学」

「そうだけど、今のところ難しいんだよ」

「なんだ。できないのか?」

「いえ、勇気さんできていないわけではありません。苦手意識が強すぎるだけです」

「ならいいじゃないか」

「うーん」

 という家族団らんの時間を得ることができた。

「そろそろ、勇気って呼び捨てでもいいんだよ」

 なんて、母さんがナビに言っていることが聞こえて一緒に住んでて他人行儀なことを意識していなかったことを思い出したりもした。

 学校へ行く途中も、

「今日は平和ですね」

「うん。毎日これだといいんだけど」

「そうですか?」

「うん。だって、何事もない平和な日々が一番でしょ。実際に色んな人にあって感じたよ」

「そうですか」

 と、しみじみ過去を振り返る爺さんみたいなことをナビと話たりした。

 いつもなら、

「悪者です。早く起きてください!」

 というナビの言葉に頭を働かす前に着替えて外へ出ることが日常でゆっくり朝食を食べたり、会話を楽しむことなんてできなかった。

 それを思うとやはり今日は珍しく平和なのだろう。いいことだとも思う。

「気にしすぎですよ」

「そうかな?」

「そうですよ。こんな日はめったに無いですし、ゆっくり羽根を伸ばすべきです」

「そうだね。そうしよう」

「はい。休養も活動のうちです」

 学校につくまでにサポーターであるナビにそう言われたため考えるのは辞めた。

 いくら考えたって危険な状況の原因は複雑でも平和は単純なのだ。

 何も問題が起きていない。それは言いすぎかもしれないが自分にとってはそうだった。

 だから学校に行ってからは考えなかった。

 平和なときのいつもどおりを忘れていた自分は多少ぎこちなさが合ったかもしれないがそれでもリラックスして学校の時間を過ごせた。

 そんなことがいつぶりなのかわからないほどの出来事だった。

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