第61話

 それからも僕はほうけていた。

 何を考える訳でも、何をするわけでもなく。

 道の真ん中にずっと同じ姿勢で、ボーッとしていた。

 思考停止というものを体感した瞬間だった。

 やがて、ふくらはぎのしびれからしゃがんだ姿勢を保つことができなくなり、僕は右側へと倒れ込んだ。

「痛い!」

 そこでやっと自分の意識がもとに戻った。

 自分の意識が戻るまでナビは待っていてくれた。

「あ、ありがとう。待たせたね」

「本当ですよ」

 自分に何があったのかを尋ねたときと同じ様にナビの言葉には棘があったがそれでも、僕を置いて家に帰ることをしないでいたくれたことはありがたかった。

 今の自分では家に帰ることができたかわからないからだ。

「きょ、今日も色々あったね」

「そうですね」

 思えば、あっという間だったように感じる一日だったがそれでも濃密だった。

「あっそうだ!」

 自分が急に出した大声にナビは身を引いた。

「別に何もしないよ」

「なら、いいんですけど」

「いや、違う違う。本当に何もしないわけではなくて」

 僕は左ポケットからスマホを取り出した。

 左に転ぶか、右ポケットへと入れていたら画面が今頃バッキバキになっていただろう。そんな風に思ってしまってから、本題に入る。

「連絡先教えてもらってなかったから」

「あっ」

 ナビの声は抑えられていたが驚きが含まれているのを感じた。

 きっと、覚えていたのか、と思っていることだろう。

「よく、わかりましたね」

「まあね、なんだかんだと一緒にいるから」

「ふふっ」

 2人で笑いあった。

 もう、赤の他人と言うには長い間を過ごしすぎたそんな関係だと僕は思っている。

 ナビやラ・マさんのように心を聞く事はできないが、推測することは誰にだって可能だ。

 もちろん、正確ではない。

 だが、誰と関わるときだってそうだ。過去こうだったから今もこう思っているのではないか? そんな推測を繰り返して少しずつ精度を上げていく。

 コミュニケーションの上達はどれだけその人と過ごすかと一致するのではないかと思う。

「だから、今まで以上に連絡を取れるように」

「いいですよ」

 いつの間にか気が変わったのか先程までよりも言葉に温かみを感じた。

 あるきながらでは、危ないからと道の端によって同居人との連絡先交換をした。

 これで、僕からもナビに連絡を取れるそう思ったが、

「そう言えば一方的にナビに呼びかけることは今までもできたんだよね」

「距離にもよりますけどね」

 まあ、自分はナビの声を聞くことはできなかったのだから進歩と考えられるだろう。

 それにこれによって距離の問題も解決したわけだ。

 帰路を再びあるきながらそう思った。

「ありがとう」

「どうしたんですか? 急に」

「ううん。言いたくなっただけ」

 僕はナビがそばにいてくれて本当に良かったと思った。

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