第60話
話が終わったのか、優美ちゃんは僕に向かって歩いてきた。
「ちょっとしゃがんで?」
「……うん……?」
理由はわからないが、僕は優美ちゃんと同じ目線までしゃがんだ。
今思えばじっと優美ちゃんの顔を見るのは始めてかもしれなかった。
幼いながら整った顔立ちをしていて、悟さん、明美さんに似て美人になりそうな気がする。
もちろん、自分は顔のパーツに関して細かいことを知っているわけではないため、どこがどうしてそんな結論になったとか説明はできない。
だが、一般に目が大きいということが可愛らしさを表している気がするからそこだけは言語化できる。
「……!」
「それじゃあバイバイ」
「……ば、ばいばい……」
「またね~優美ちゃん」
僕は呆然として声も小さく出し、手も小さく振った。
そのまま、僕は佐藤一家と山村を見送った。
自分は何が起きたのかわからなかった。
未だ、優美ちゃんが恥ずかしそうに目の前に立っていた姿が目に焼き付いて離れない。
そのまま、僕の顔に顔を近づけたかと思うと、
「え?」
自分は自分の顔を触って確かめた。
別に何も残っていない。鏡で見たらまた別の結論が得られたかもしれないが触っただけでは何もわからなかった。
「え?」
確かに何かが顔にあたったのだ。
僕の顔に、優美ちゃんの顔が近づいて、何かが触れた感覚があった。
やっと、記憶が戻ってくるが、しかし、自分は物事の全容を把握できていない。
自分でも自分が混乱しているのがよくわかる。
「な、ナビ。い、一体何が?」
「知りません」
意地悪からか、何故か不機嫌そうなナビは何も教えてくれなかった。
どこか声も冷たくそっぽ向いてしまった。
僕はそのまま考え続けた。
きっと、答えが出ないだろうが、そう思いつつも考え続けた。
ただ、この問題の答えは絶対に自分の記憶の中にあるはずなのだ。
人生とは? とか、愛とは? といった答えのない問ではない。
僕は優美ちゃんに何をされたのか? ということだ。
いや、本当は十分すぎるほど自分はヒントを得ているのだ。
気恥ずかしさからそれを自分の何かが認めようとしていないのだ。
そう、これが今回の僕へのお礼。優美ちゃんの精一杯の気持ち。
自分自身ではなく。自分の気持ちを表現する方法。
それが、
「…………キス……?」
柔らかかった。何かが当たった記憶が再び脳から再生された。
優美ちゃんは僕に向かって歩いてきた。
「ちょっとしゃがんで?」
「……うん……?」
何をしようとしているのかわからなかった僕は曖昧な返事をしてしまってから、じっくりと真正面から優美ちゃんを見た。
恥ずかしそうにしているところも可愛かったが、自分はただしゃがんで何かを待った。
その後、優美ちゃんは顔を近づけて僕にキスをしたのだ。
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