第21話
「お嬢様帰りましょう」
その声は突然聞こえてきた。
一度として聞いたことのなかったその声を聞いた瞬間、少女の背中が震えたのが見えた。
公園の入口近くへと姿を表したのは二人の男だった。
少年の方には見覚えがあった。
泥棒以来の初仕事の時に押し倒された少年だった。
あのときは緊張で意識していなかったが子供にしては上等な服を着ているように思える。
もうひとりは大人だった。
声の質から判断すると先程の声の主は大人の方だと思われる。
その男が放つオーラは異様だった。
見た目もあのラ・マさんもびっくりというほどのイケメンだ。まるでフィクションの世界から出てきたような屈強そうな見た目に整った顔だった。
が、そっちはどうでも良かった。
最近の自分の自信となっている要素として相手の力量を見抜くことがあった。
元はナビや、ラ・マさんの指示に従い行動していたが、そこから相手の何が危険の指標なのかを考えることを意識してきた。
その結果自分の予想とナビや、ラ・マさんの評価が一致することが増えただけでなく周囲の人間の危険度も見ればある程度は分かるようになってきていた。
だから、自分はわかった。大人の男の素質は異常だった。そして、自信の質もかなりのものだと推測できる。
しかし、少女は立ってその男の元へ歩き始めてしまった。
ナビに軽く挨拶を交わした時に見えた顔は明らかに曇っていた。
一言で男の元を優美ちゃんが目指すところを見ると知り合いなのは間違いないだろう。
だが、あの男は危険だ。
優美ちゃんを近づけるわけにはいかないそう思った僕は、
「すみません」
と大声で大人の男へ声をかけた。
「なんでしょう。おや、ふっむ」
男は突然僕を品定めするかのようにジロジロ上から下、下から上へと体を舐めるように見てきた。
「なんですか?」
「いや、失礼。あなた見た目によらず鍛えてますね。しかも、かなり」
「どうして?」
「いやなに、私の趣味でしてどうしても初対面の人間は観察したくなるんですよ。あなたならわかりますよね」
「……!」
わかっているのか? この男は、僕が見ていたことを、何を見ていたのかを。
「それはいいんですよ。あなたのような優秀な人間ならお嬢様のボディガードには確実になれるでしょうね。だが、まだ若い」
「それはどういう」
「行きましょうお嬢様! 帰りますよ」
気づくと優美ちゃんは男のもとに居た。
少年は嬉しそうに笑い何事か話していた。
しかし、優美ちゃんはただうなずくだけで反応らしい反応は示していなかった。
「あのッ」
どうにか食い止めようと声を出したが、
「来ないでッ!」
「だそうですよ?」
「くッ」
「お願い! 来ないで」
優美ちゃんは泣きそうだった。理由はわからない。
しかし、僕は少女のその祈るような目を裏切ることはできなかった。
強く握っていた両の拳を広げ、
「さようなら」
と手を降った。
「また、会えるといいですね!」
そう返事したのは大人の男だった。
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