第22話

 帰り道は憂鬱だった。

「ひどいですね。まったく」

 とナビも珍しくご立腹だった。

 確かにそう思うのもおかしな話ではない。

 しかし、僕はそんな感情を抱けなかった。

「そうだな」

 その声も自分でも認識できるほど心がこもっていなかった。

「大丈夫ですか?」

「え? 何が?」

「いえ、大丈夫ならいいんですが……」

「大丈夫だよ。ほら」

 とマッスルポーズをしておどけてみせるが自分でも強がりなのがよくわかった。

 今はただ、ひどい喪失感だけだった。

 そう、認めたくなかった。無理してでも現実が書き換わるのなら、今さっき起きたことが嫌な予感の正体だと認めたくなかった。

 だから、作り笑いも作った。いつも異常に冗談も言った。

「ナビにはわかっちゃうよな」

「はい」

 でも、そんなまがい物はナビには通用しない。

 それでも演じてしまった。

 自分がまだ子供だということをよく表していることなのかもしれない。


 翌日。

 案の定、公園に少女は居なかった。

 嫌な予感は的中してしまった。

 ついてきてくれていたナビはただただ無言だった。

 見守ってくれていた。

 来る日も来る日も公園を訪れたが少女の気配はそこにはなかった。

 ただあるのはひたすらの虚無だけだ。

 こんなことは今までなかった。

 一日としていない日はなかった。

 それがおかしかったのかもしれない。僕らがずれていたのかもしれない。

「違いますよ」

「違わない!」

「違います」

「じゃあ、どうしてこれが現実なんだ?」

「それは……」

「答えられないだろう? そういうことだよ。僕がずれていたんだ!」

 やっと見つけた宝物を取り上げられた喪失感。

 乾いていた大地が潤ったものの再び乾いたようなもの。

 僕の心はカラッカラに乾いてしまった。

「ごめん」

「いえ」

 自分は弱いままだった。

 強くなったと勘違いしていた。

 変わっていなかった。

 ただのどこにでも居るコピーペースト中学生に過ぎなかった。

 自分の頬を熱いものが伝った。

 それを見たナビは無言でただ抱きしめてくれた。

 僕も彼女の背に手を回し、彼女の胸で泣いた。

 しかし、何も解決されなかった。

 涙が流したのは涙でしかなかった。

「大丈夫ですよ」

 そう優しく声をかけてくれるナビの存在が嬉しかった。

 だが、僕にあるのは、ただの、喪失感。

 無、だけだった。

 僕はどうしたらいいのだろう?

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