第23話

 それからの僕はただ腐っていることができなかった。

 絶望していた。

 現実に、自分に、この世の中に。

 だが、足を止めることはできなかった。

 平和なのは最悪の始まりのあの日だけだった。

 それ以来前にもまして悪者の出現頻度が増した。

 着替えなんてしている暇のない僕は予め制服に着替えて眠るようになった。

 睡眠なんてどうでも良かった。

 ただ僕が行動できればそれでいいのだ。

 起きていれば変身できる。返信できれば事件は起きる前に解決する。

 後は警察の話だ。僕には関係がない。

 聞こえるのはナビの声だけ。

 今もバレていることを知りながら、

「大丈夫ですか?」

 の言葉には、決まって、

「大丈夫大丈夫」

 と笑顔で答えている。

 ただ、狂っていたのはやはり僕だったらしい。

 そうして自分の活動を蔑ろにして、変身後の自分だけで活動していると、僕のことを見る周囲の目が変わった。

 話しかけても素っ気なくなった。

「おはよう」

 と言えば。

「おはよう」

 と帰ってきていたものが、

「お、おう」

 とどこかぎこちない返事しか帰ってこない。

 おまけに、

「なみちゃん、あんな奴と一緒にいることないよ」

 女子生徒が明らかに僕に聞こえるようにナビに言っているのを見てしまった。聞いてしまった。

 だが、ナビが、

「勇気さんはあんな奴じゃないですよ」

 と否定してくれたことが、何よりも救いだった。

 しかし、人間関係の悪化は学校だけにとどまらなかった。

 僕の話はそんな親しい人間関係の中だけで行われていたものではなかった。

 街を歩いているだけで指を指され、白い目で見られるようになった。

 僕が何をしたわけではない。ただ、効率を求めて生身でも活動をやめただけだ。

 にもかかわらず何もしていない人間たちに僕は罵倒の言葉を浴びせられた。

 やれ、偽善者、だの、この世の恥だの、挙句の果てには、

「この街から出ていけ」

 とまで言われた。

 僕が一体何をしたというのだろう?

 こんなときでも、ラ・マさんもロ・マさんもコンタクトが取れない。音信不通のままだ。

 今では信頼されていたなんて自分の思い上がりだったと強く確信している。

 それでも、まだ、そこまでなら良かったのだ。

 家族仲も悪化した。

 結局良くなるときは良くなり、悪くなるときはとことんまで悪くなるのだろう。

「お前はただ暇つぶしに、人助けをしていたのか」

 それ以来父は僕に何も言ってくれなくなった。

 母とは、

「ただいま」

 と言えば、

「おかえり」

 と言ってくれるがやはり距離がある。

 僕にはもうナビしか居なかった。

 ナビと距離があると感じていたのが嘘のようにただ、信じられる一人になってしまった。

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