第37話

「見つかっちゃったか」

「誰だ」

 両手を持ち上げおどけてみせた男は明らかに今までの人間の中でも雰囲気がずば抜けてどす黒かった。

「誰だと聞いているんだ!」

「名乗る義理があるか? まあいい。こいつが欲しいんだろ? 返してやるよ」

 そこで、背中を押され膝をついて倒れたのは僕の探していた少女――優美ちゃんだった。

「お前だったか、さらったのは!」

 優美ちゃんの無事を確認してから僕は怒声を放った。

「いいだろ? 返したんだから。おっかないから、さっさと帰ってくれよ」

「ああ、ここに着た目的は果たした。今は優美ちゃんの安全の確保が第一だ。そうさせてもらう」

 そう言い。自分はその場を後にしようとした。

 ガンッ

 硬いものが後頭部に当たった。自分が変身していなければ確実に大きなダメージとなっていたそれに僕はこれ以上我慢ができなかった。

「ふざけるな」

「ふざけてるのはお前だろ。なんだよ。何で立ってんだよ。くそ、おい! 出てこい!」

 どこから湧いて出てきたのか、どこにこんなに人が居たのか、僕はあっという間に再び取り囲まれてしまった。

「へへぇ、これでさすがの伝説も終わりさ、都市伝説も伝説だろぉ? 見せてくれよ」

「グアッ」

 僕は初めて変身して痛みを感じた。

 優美ちゃんに覆いかぶさるようにして守ることしかできないのは屈辱的だった。

「クマさん」

 優美ちゃんのそんな心配そうな声に返事をすることもできない。

 僕はただ、意識を一転に集中させていた。

 剣に、ヤミの剣に。

「ゼアッ」

 気合とともに半円を描いて剣を振り抜いた。剣に切る場所の指定はない。どこでも当たれば同じだけの効果が得られるのだ。

 一気に半分の勢力が削がれたことに度肝を抜かれたのか一瞬攻撃の手が止んだ。

 僕はそれを見逃さなかった。

 カンッ

 次に響いたのは気分の良くない音ではなく、地面に響く高い音だった。

 僕は集団攻撃から抜け出し優美ちゃんを背後に、敵を前に平等の状態へと持ち込むことができた。

「いいねぇ~、そうでなくっちゃな」

 未だ余裕そうなボスに睨みを効かせた後、僕は勢いそのまま1人残らず切り倒した。

「が、これで、おわりと」

 そこままで気を失ったボスを見て安心してしまった僕は後ろからの接近者に気づかなかった。

 とっさに左腕で防いだつもりが石に直撃し砕け散った。

「あっ」

 優美ちゃんの声でその事に気づいた。

 しかし、そこまでで力尽きたか誰一人として動くものはいなかった。

「勇気さん」

「そうだ。けど、まだ危ないかもしれない。離れないで」

「うん」

 僕はそのまま警戒しつつ入り口へと歩みを進めた。

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