第34話

 とにかく走った。

 無我夢中でただただ走った。

 しかし、黒い点が大きくなることはなく次第に小さくなっていくばかりだった。

「クソックソックソッ」

 悔しさだけが僕の心に渦巻いていた。

「変身ッ」

 僕は車に追いつくことだけを考えて無意識的に叫んでいた。光が僕の体を包み込み視界が開ける次第に代謝が上がり歩幅も大きくなっていくことが感覚的にわかる。

 そして、ずんずん進んで行く。人には出せないスピードでただただ前へ進む。

 それでも、黒点は未だ大きくならず不安が募るばかりだ。

 だがしかし、今の僕にできるのは信じて走るだけだ。ただ、走る。ひたすら走る。

 すると、僕の目にも黒点が明らかに大きくなっていくのが感じられた。

 それからはひたすら距離が縮まるだけだった。まるで、僕が招かれているような不快感が胸をなでた。

 ようやく追いついた時には車の中に人の姿は一切なかった。

 しかし、知覚にはアジトと思わしき廃工場があった。

 敵が中にいるのが明らかで、雰囲気もそれ相応のものであった。逆にそれがフィクションのような非現実的なもののようで僕は廃工場へ入るべきか一瞬での判断をした。

「行こう」

 誰に聞かれるわけでもない声を自分の覚悟を固めるために発し、僕は廃工場への一歩を踏み出した。

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