第65話

 とうとう、一日の終りが訪れた。

 僕は自らリビングに布団を敷いた。

 変わらないこともあるが変わることもある。それが現実なのだ。

「終わったな」

 横になると言葉が漏れた。

 家族は皆自室で就寝している頃だろう。

 だが、僕はなかなか寝付けなかった。

 確かに振り払えたはずの恐怖が再び這い寄ってきたからだ。

 人は弱い。

 簡単に心が折れてしまう。

「はあ」

 今度ばかりは息をついても登ってきた恐怖は消えなかった。

 こんな時いつかはラ・マさんと話して過ごしている内に不思議と不安がなくなって、いつの間にか寝入っていたのだ。

 だが、どうも不調なのか僕の偽物をさらって以来、声が聞こえない。

 たいてい、馬鹿にすれば何かしらの反応が帰ってきたものだが、

(ラ・マさんのバカ、アホ、マヌケ)

(……)

 なんの音沙汰もない。

 ラ・マさんのことが不安になるが彼は大丈夫だろう。なんかそんな気がする。

 今までだってそうだったからそう思うのかもしれない。

 まぶたをつぶり、僕は仕方なく回想した。今日までの出来事を。

 ラ・マさんとの出合い。

 それが大きな変化だった。

 僕はその時から周囲との関係の改善を感じた。

 だが、今思えばそれは認識が変わっただけだったのかもしれない。

 僕がただ、仲が悪い。と決めつけていただけだったように思う。

 それからは、活動に追われながら日々を過ごし少女と出合い。二度目の大きな変化があった。

 下落。

 そして僕はまた盛り返す。

 諦めず歩いてきたつもりだ。これからだってそうだ。

 だから、優美ちゃんも助けられたし、今僕は家に帰ってこられたのだと信じている。

「もう寝よ」

 考えていてはいつまで経っても日は登らない。

 そう思い僕は落下の感覚に包まれるのを待った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る