第40話
そこから僕はまた丸一日眠っていたらしい。
自分の正体がバレたことやルール違反をしたことについて話された後気を失ったように眠りについたらしい。
これらは聞いた話なので真実かどうかはわからない。しかし、自分の記憶が言われた通り正体がバレたことへの自分の反応までなので信じていいと思っている。
それより何より、起きた途端体が今までにないほど軽かった。
クマ人間に変身しているときは移動スピードはたしかに早かったのだが前進にプロテクターでもつけてるのか? 重りでもつけてるのか? と言うほど体は重かったためとても清々しい気分だった。
とあることを認識するまでは、
「なんじゃこりゃー」
「どうしました?」
「ど、ど、ど、どうしたもこうしたもない」
そもそも自分の発する声が自分のものとは似ても似つかない。
いや、それ以前に目に飛び込んできたのは、
「ちょっと手鏡とかある?」
「一応、ありますけど、見るんですか?」
「現実は直視しないと」
つい最近までできていなかったことをただの好奇心を隠すために、正当化するために言葉として使った。
ナビから手渡された手鏡に映っていたのは、自分の顔ではなく、誰かの、それも、美少女の顔だった。
自分の意思と同じ様に動く鏡の中少女はそれが自分の顔にくっついているものと認識するまでに時間を要した。
気づいたのは自分の髪の長さ、そして、下を向いた時に見える自分の体だった。
まったくもって質感が違った。
長い睡眠から覚めた罪悪感と体が軽い高揚感。それら二つが緩衝材となったものの現在の自分を受け入れるのは困難だった。
「なんじゃこりゃ~」
「なんじゃこりゃ~、じゃないよ。言ったよね?」
「な、何をですか?」
そこでようやく訪れたのはことの張本人であろうラ・マさんだった。
「何をですか? じゃないよ。本当に覚えてないの?」
その言葉に自分は深く考え込んだ。
なんとなく忘れていたことにしておきたかったのかもしれない。
少し考え、思い出そうとすればスルスルと紐を引くように蘇ってくる当時の記憶。
それは、まさに、僕がラ・マさんとナビと始めてであった日のこと。
自分に大きな変化をもたらしたあの日のこと。
言うまでもない。いや、現実を受け入れるんだ自分。言ってしまえ。
「ど、ど、ど、どろぼ、ぼ、ぼ、うの一件のときのあの、おど、おど、おど、どし」
「それ以上は言わないでくだすぁい」
「ゲフッ」
叩いてきたのはナビだった。
どうやら、あの日のことを忘れていたことにしておきたかったのは僕だけではなく、ナビもまた同じらしい。
「ナビも嫌がってますし、なかったことにしません?」
「それはできないね。起きたことだから」
「……」
自分は両手を上げラ・マさんに観念したことを態度で示した。
「ルール違反は変身というペナルティですね」
「正解」
「いやぁぁ」
「落ち着いて、ナビ。多分、大丈夫だから。多分」
「は、はい。はい……」
ナビはそう、元気のない返事だけして暗闇の中に姿を消してしまった。きっと、部屋の隅で体育座りをしているのだろう。
そして、ナビの同様で不思議と自分は冷静さを保てている気がする。
「仕方ないですよね。僕が起こしたことですしね」
「おや、思っていたよりも冷静だね」
「色々ありましたから」
「色々ね」
そう、僕には色々あった。思い出すには辛すぎるそれらは今の自分とは関係があろうとも、今の事態とは一切関係がない。そのため、わざわざ思い出すようなことはしない。
「そういえば」
「なんだい?」
ペナルティとして自分の体を変化させたことは流石に認識することができた。しかし、それとは別でナビに起きて自分に起きていない変化もあることに気がついた。
「何で僕は変化しても、なんていうか……」
「人格に影響が出ないのか? そんなところかな?」
「はい」
それは、最もな疑問だろう。なぜなら、いくら、表面的に変化させただけとはいえナビと僕の大きな違いだ。そして、僕の精神力がそうしている。ということはないだろう。僕は、少女と少し会えなくなり、人々の自分への態度が変わっただけでも、かなりショックだった。
「そうだね」
「やっぱり、精神力ではないですよね」
「違う。そうだな、これは俺からの感謝の気持だよ」
「感謝?」
「そうだ。せっかくだし、君の気になっていることを話すとしようか」
そこで、ラ・マさんの様子が大きく様変わりしたような気がした。
今までのものすごい気迫に包まれたそれではなく、ただの一般人のような、むしろ、特徴を切り落としすぎているようなそんなオーラになってしまった。
「山村という青年の話」
「ごくり」
僕は生唾を飲んだ。
「そして佐藤家との関係の話」
こんな感覚は始めてだった。
自分の体が変わってしまったことではない。
ラ・マさんの気配について、今の状態が本物なんじゃないか、そう思ってしまった。
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