第41話
「最初は何を話そうか?」
間髪入れずに話し始めるのかと思っていたがそうではなかった。
「じゃあ、山村がこの力を知っていたことから」
僕はそうして、左手首の粉々になった石を目の前に掲げた。
「そうだね」
そのラ・マさんの応答も穏やかなものだった。
「実は、彼は僕を知っているんだ」
「そんな気はしていました」
「なら、なぜ知っていると思う?」
そう、その関係がわからなかった。
どう考えてもつながらない。
こんな別世界のような場所に来ることなど僕だって自力ではできていないのだ。
「そう、だろうね」
それだけ言ってラ・マさんは指を鳴らした。
次第に視界が明瞭になり部屋が明るさを手にした。
「これは」
不意に声が漏れた。自分の立っている場所は部屋の中央。学校の体育館が2、3個つながったような広さを持つ部屋が自分の居た謎の空間の正体だった。
そして、部屋の隅には予想通り体育座りでナビがうつむいていた。明かりに気づいた様子がないため眠っているのかもしれない。
「これが、俺の店だ。そして」
ラ・マさんは後ろを指差した。それにつられて振り向くとそこにはドアがあった。
「あれが、店の入口」
「じゃあ、本当にここは現実に存在していると?」
「そんなところだ」
今まで考えたことがなかった。力や、ナビ、その存在がラ・マさん、ロ・マさんの非現実性を高めていた。
どうせ、別世界のものだと思っているフシもあったが、現実に存在していたとは。
「山村は、そこから、この店に入ってきていた。俺の客として」
「客?」
「そう、ただし、山村はただの付き添いだ。メインの客ではない」
「じゃあ」
一体誰が、そこまで言おうとして口をつぐんだ。
自分は気づいた。この瞬間、なぜ山村と佐藤家について一緒くたに話そうとしていたのかについて。
山村は佐藤家の家政夫のような存在だと予測できる。
ということは、
「まさに、メインの客は佐藤家、わかりやすく言うなら。佐藤優美の父だ」
「……!」
彼はここに来ていた。いや、彼らはここを知っていた。しかし、優美ちゃんは自分の石について何かを知っている素振りはなかった。興味は持っているようだったが。
「彼女はここには来ていないよ。来ていたのは佐藤悟。優美の父の名だ。あと、山村だけだ」
「なるほど」
自分の中で未だ現在の情報を噛み砕けていないのかどうもしっくりこない。
来ていたとはいえ、このがらんどうの部屋で一体何をしていたのか、その上、山村はどこで力を知ったのか。謎は増えるばかりだ。
「この部屋は元から、人の心を写すようにできている」
「写す?」
「そうだ。つまり、ものを欲するものには物が見えているし、そうでないものには何も映らないかもしれない」
「それは、今、この部屋が明るいと思っているのは、店はそういうものだという僕の心理?」
「そういうこと」
たしかにそれなら合点がいく、自分の心ががらんどうというのを部屋に表現されるのは腹立たしさもあるが、仕方ない。これもまたマジックアイテムのようなものだろう。
そして、ナビが未だに俯いたままなのはナビには僕の見えている景色が見えていないからだと推測できる。
「そういうことだ。俺は佐藤悟に物を売っていた。俺は物を渡し、彼は金を渡す」
「金? 物? 実在は……」
「するさ、君の持っている石はどこへ行っても実体があるだろう?」
そうだ。消えたりした記憶はない。それに、触るとサラサラしたようなザラザラしたような手触りもある。
さらに、ここまでの話を整理するならば、
「この石は僕の力の象徴ということですか?」
「まあ、そういうことになる。あのクマ人間もだ」
原始的な自分のイメージになんとも不思議な感慨を抱いた。
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