第42話
「それでも、買い物もしていなかった山村はどこで力を知ったのですか?」
そんな言葉を放った時に目の前に着替えが置かれていることに気がついた。
今の見た目は男物を来たままでブカブカで動きづらく、数歩動くと転けそうな予感がした。
「すいません。ナビ!」
ラ・マさんが話し始める前にナビに声をかけた。
びょこんと立ち上がり駆け足で寄ってくる。
「なんでしょう?」
その言葉には元気はないが頼めることは頼もうと思った。ただそれだけだ。
「ちょっと着替えさせて欲しい」
「今ですか?」
「うん」
「触っていいんですか?」
「うん」
「では、失礼します」
「お願い。続きを」
しかし、意外なことにラ・マさんはたじろいでいるようだった。
「どうかしました?」
「いや、目の前でそんなことされて話せると思うか?」
「何言ってんですか? 僕は男ですよ。それに、ロ・マさんだって、胸元ほとんど見えてるようなものじゃないですか」
「いや、まあ、いいか」
これなら、多少心理的に上手を取れるかそう思ったのもつかの間、
「結構、可愛いんだよな」
ラ・マさんさんはそう、たしかに、しかし、ボソッと呟いた。
「や、辞めてください。僕だって鍛えてるんですからね」
「いや、なにかしようってんじゃないんだが」
「ちょっと勇気さん動かないでください」
「すいません」
着替え中ということを忘れ、飛び退り構えをとってしまったため中断してしまった。
気を取り直して、着替えさせてもらいつつ、話を聞く、着替えさせてもらうのは思っていたよりもくすぐったい。
「ええ、それで、まあ、山村には見られてしまったんだ」
「何をですか?」
「力を渡すところを」
「どうして?」
さすがのラ・マさんも頭を抱えたようだ。どうやら、山村に見られることは予定外の出来事だったらしい。
「彼に見えていたのは清々しいほどの景色だけだったはずなんだ」
「はあ」
何の話かわからないが何か意味があろうと聞くことにした。
ナビは、小声で足を上げてくださいとか腕を上げてくださいとか言って、頑張ってくれている。
「だから、彼が居るときは警戒していた。すべてが見えてしまう可能性もあったから」
「はあ」
「だが、しくじった」
「はあ」
「彼の力への執念はすごいものだった。お嬢様! お嬢様! ってね」
そのことはものすごくわかった。
そして、変な声がでないように意外と忍耐力が必要なことに今気づいて、自分も苦しかった。
「どこかで薄々気づいていたとは思う。俺の渡すものが非現実的だったから」
「そうですね」
「だが、渡しているのは何かが突出している者だけなんだ」
「僕は正義だとかなんとか」
「そう。彼はそれがなかった」
驚きだった。執念や、優美ちゃんへの気持ちは大きいはずだし、肉体的な能力も頭脳も長けているはずなのに、彼は突出していない。そんな現実は衝撃だった。
「そうかも知れないね。でも、彼は天才じゃない。努力の人だ」
「……」
そんな言葉が続く気がしていた。だから、僕は今ズルをしているような気になっている。
「彼には渡せなかった」
「だから、知っていたと」
「そうだ」
しかし、わからなかった。努力の人ならそれが突出しているのではないか? なぜ僕だったのか?
「それより、他にもいたんですね」
「言ってなかったな。すまない」
「いえ、いいんですけど」
「努力が突出じゃないわけじゃないんだ」
「それじゃあ」
「姉さんの力さ」
「ロ・マさん?」
「そうだ」
彼女はあまり、前に出てこない。理由はわからないが、ラ・マさんほど僕は親近感を持てていない。
「姉さんのは未来が見えるらしい」
「未来が?」
「そう。そこで、占いだ。今まで外れたことがない。突出した努力ではなく未来に活躍しているかだ」
「未来に?」
「そう。その補強でしかない。力はそんな弱いものだ」
「なら」
僕は唇を噛んだ。山村の悔しさ、憧れの感情は僕には想像もできない。
しかし、彼は彼なりに苦しみ悩み悲しんだ。
掴めないと知りながら努力を辞めなかった。
だから、僕は声を出せなかった。
彼についてわかった気になってはいけないと思ったから。
「そうだね」
「はい」
だいたいのことはわかった気がした。
悩みは自分はそれでいいと思う。
考えすぎるとろくなことにはならない。
「終わりました」
「よし、じゃあ行こうか」
ラ・マさんは僕にそういった」
「どこにですか?」
よく見てみると僕の着ていた服はナビと同じ服、いや、制服だった。
「あんまり長く居るところではない。まだ、日常に戻るには時間はかかろうが大丈夫だ」
「いや、あのちょっと待って下さい」
「君の剣はもう折れているだろう?」
「い、行こう、ナビ」
「え、はい!」
何を言っているのかは理解できなかったが逃げるように初めてドアからラ・マさんの空間を後にした。
「感謝は君が少女を守ったことかな」
ラ・マさんがそう言った気がした。
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