第11話
案の定、向かった先に居たのはただの少年だった。
「ほら、なんだかんだ悪者って言っても人間じゃん。しかも子供だし、どこかで着替えて学校行っていいでしょ?」
「だめです。あの少年はこれからこの場所で何かをするようです」
(そうだ。止めるんだよ)
「わかりました。行ってきますよ」
なんとも気乗りしないが任されたことだし、いつ逆鱗に触れるかわかったものじゃないし仕事と意識を切り替えて僕は少年に向かって進んだ。
しかし、自分で思っていた以上に足が重かった。一歩また一歩と進むにつれてラ・マさんやナビの言うように少年が危険人物なのではないか。見た目以上の何か危険性を帯びているのではないか。
そんな疑念が心のなかでうずまき進むことがためらわれる思いだった。
自分で自分を褒めてやりたいほどの行動力で僕は少年の真後ろへと到達した。
「君、何をしてるのかな?」
「うわッ」
途端、自分の視界は空を捉えた。その後自分の体がのけぞったことを認識するや必死でふんばろうとするが間に合わず、
「いって」
僕は年の差5つはあろうかという少年に突き飛ばされ尻餅をついた。
そう言えば、今まで考えていなかったが今回は石を使っていなかった。
(石?)
はっと気づき自分が地面に手をついた衝撃で壊れたのではないかと心配したが、
(その程度じゃ壊れないよ)
ラ・マさんの言う通り石は無事だった。
しかし、僕はこの謎の石の強度について何ら知識を持っていないのだ。
壊したら自分がどうなるかわからないとあっては無闇矢鱈に心配になることについておかしいことはないだろう。
そんな心の葛藤を知らないであろうナビは、
「弱っちいですね」
と言った。
「ん?」
と聞き返したが、
「弱っちいですね」
と再度言っただけだった。
聞き間違えではなかった。僕は少年に突き飛ばされ石についての心配をしている間にナビに弱っちいと思われてしまったのだ。
と言うより、
「ひどくない? 急に押されたんだよ? そりゃこけるよ」
「ならいつまでも座ってないで立ったらどうですか?」
「それもそうなんだけど」
自分でも今の今まで意識していなかったが尻餅をついたままの状態で会話していたのだ。滑稽極まりない。この様相では弱っちいというナビの評価も仕方ないのかもしれないという思考が頭をよぎった。
(クスクス)
(笑わないでください)
「それにナビ、さっきまで朝食くれて優しかったのに急に冷たくない?」
「こういうのが好きと聞いていたので」
ナビはそう言うが自分はそんなこと今まで誰にも一切言ってないし、そんな素振りを見せたことがないと断言できる。
「一体誰がそんなことを?」
「ラ・マさまです」
(お前な)
(まあ、楽しそうじゃないか)
(楽しいか!)
僕がいつ自分をMだと言った? マゾヒストだと言った?
言ってない。そんな訳がない。
「ナビ、僕は決してそんなことで喜ばないから」
「わかりました。では行きましょうか」
「そうだよ……ねぇ、どこに」
「学校です」
「……」
忘れていた。完全に忘れていた。
「ヤバイヤバイヤバイ」
今はまだ朝だ。こんなにダラダラと意味のない話をしている場合ではない。
急いで着替えて学校に向かわないと、
「遅刻する。急ごう」
「では、失礼します」
「え?」
僕はナビにお姫様抱っこされて超スピードでの移動が始まったことに脳が追いついていなかった。
そういえば、ラ・マさんは心と体を少し変えただけとか言っていたな。
緊張とかしていたけど、それって結局は男ってことじゃないのか?
「男かー」
つい、ナビを見てそんな事を言ってしまったことを自分は瞬時に後悔した。
その言葉でナビはムッとし、水晶玉を抱えるような優しさはどこかへ消え、自分をただの手提げ袋か何かのように雑に持ったのだった。
いや、これはもう手首を掴んでいるだけだ。
「ちょっとごめん。謝るから、優しくしてー」
「……」
ナビは学校につくまでずっとその調子だった。
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