第12話
一波乱も二波乱もあった登校だが、自分の体も時間も無事何事もなく学校につくことができた。
思えば僕は変身していなかったが、昨日の路地で変身したことを考えると人前での変身もまたルール違反なのだろう。
(ピンポーン)
どうやら当たっていたらしい。ことを確認した上で自分は席につく。
学校は憂鬱だ。いつの間にかナビもいなくなり、普段から友だちとの会話もない僕からすれば淡々と授業を受けるだけの場所だ。
幸い、邪魔者扱いされたことはなく無視されたこともないため、嫌われてはいないのだろうが気さくに話すということが自分にはわからない。
「昨日のテレビ見た?」
「あー、あれでしょ? 見た見た」
そんな会話に心のなかで混ざったつもりの自分を作り自分を慰めることで満足している。
(悲しいなぁ)
(そうですかね)
(悲しいよ。まあ、今日からはそんな事はできないと思うけどね)
(それはどういう)
その場でラ・マさんに聞こうとしたが、先生が教室に入ってきたため意識が強制的に中から外へと切り替わる。
今のままのぬるま湯につかったような生活を続けるには教師の反感を買うのは得策ではないと考えるから学級委員の指示通り朝の挨拶を済ませる。
その後はこれまたいつもと同じく自分に関係のある話題だけを聞き取り、ほかは聞き流すだけのはずだった。
「今日は転校生の紹介があります」
教室の空気が変わるのと同時に自分の中に嫌な予感が発生した。
それは、ラ・マさんと出会ったときの感覚に近く、もうすでに自分は諦めているような、受け入れているような、そんな嫌な予感はやはり、的中してしまった。
「獅童なみです。よろしくおねがいします」
それは、さっきまで僕をただの布のように扱った存在だった。
「本物の美少女だ」
というクラスメイトの声も聞こえたが今の自分にはその言葉は半分しか正しくないように思える。
「獅童さんは二戸部くんの親戚の子のそうなので」
「えー?」
先生の声を遮る驚きの声、そして、自分に向かってくる視線の数々。どれにどんな勘定が含まれているかがなんとなくわかってしまうのが辛い。
「静かに、ちょうど二戸部くんの隣の席が開いてるのでそこに座ってもらいましょう」
「えー」
今度の声には残念さが含まれていた。
それよりも、ナビがこっちに近づき始めてからは先生の話が入ってこなかった。
(どういうことだ? 聞いてないぞ)
(君のことをいつでもどこでも監視できるように親戚として、同い年としてキミのそばに置いているのがナビだ。これで満足かい?)
言っていることは理解できた。そして、それが石の力の大小なら受け入れるべきなのだろう。
「よろしく」
「よろしく」
隣の席についたナビは、今まで着ていたそんなのどこに売っているんだ? という見た目のなんとも形容しがたい未来の制服から、THE・中学生。といった漢字のうちの制服を着ていた。
とても準備がいいなと思うと同時に、奇天烈な服装でなく、受け入れやすい女性服を着たナビには見とれてしまった。
ナビは困った顔をし、
「私の話を聞きなさい!」
という。先生の声で僕は現実を離れていたことを認識した。
「全く、見た目がいいのはわかるけど……」
先生に毒づかれた僕は、今まで以上に学校が面倒くさくなるなと思った。
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