第13話
ナビの転校初日ということもあって僕もナビも質問攻めでまともに会話できなかった。
さすがのラ・マさんも、
(もう少し、自分の好みを抑えておけば……)
とぼやいていたため今の状態は予想外だと考えられた。
一番僕が傷ついたのは、
「二戸部くんは帰宅部だけど、合わせる必要はないからね」
とナビに言っている女子生徒を見てしまったことだ。
確かに傍から今日の授業の様子だけ見ても、文武両道を地で行く、簡単に表現すれば天才に思われても仕方のない動きだった。
だが、僕からすればラ・マさんの能力の一環だと考えればわざわざ能力を低くすることはないというのが結論だった。
その時だけ、
(わかってるじゃないか)
と言われたのは少し嬉しかった。
ナビがやってきたことで長く感じた一日も終わり人もまばらになったため僕とナビはやっとのことで帰路につくことができた。
「では、帰りましょうか」
その言葉が聞けて肩の荷が全て降りたような思いだった。
「ああ」
という自分の言葉も気が抜けていた。
しかし、
(昨日の商店街に行ってね)
とラ・マさんに頼まれてしまい。まあ、帰り道の一環だしということで何も考えず商店街まで歩いた。
そこまでの道のりも朝ほど元気もなく、特に会話もなくただ歩いただけだった。
学校での今までにない会話量に疲れた。
商店街まで着くと、途端に視界が真っ白になったため気を失うのかと思ったが、それは違った。
一日振りのラ・マさんの店だった。
しかし、目の前にいるのはラ・マさんではなかった。
「お疲れ様。まあ、事件っていうのもそんなに頻繁に起きるものじゃあないさ、アベレージはこんなもんだと思ってもらえると助かるよ」
僕は再び目の前の存在に見とれてしまった。
声にも見た目にも自分の意識をほかへと移す力が奪われてしまったかのように言うことを聞かない。
「私の占いどおりだったことを嬉しく思うよ」
その言葉にも関心を持てず、ただ、声の音、見た目の質感、頭から足に至るまでの人を現すもの全ての情報が欲しかった。
すると、パンッ、と乾いた音が自分の頬でなった。
自分は痛みを感じた。
「そんな風に思ってはいけません」
そう言ったのはナビだった。
僕は気づいた。危うく意識のすべてを目の前の女性にだけ向けるところだった。
「ありがとう」
「いえ、ナビですから」
「さすがだね」
今度の目の前の女性の声には自分は意識を奪われまいと抗った。
その甲斐あってか理性を保つことができた。
ねっとりとしていて、甘く、ただそれさえあればいいと思えてしまうような依存性の強いデザートを空腹時に目の前に出されたような、そんな、ただ、欲に飲まれてしまいたいという自分にむち打ち意識を保つのはかなり負担だった。
そこでようやく、
「ちょっと姉さん。あまり僕の部下たちをいたぶるの早めてくれないか?」
と言って出てきたのは僕たちをここへ呼び出した張本人だった。
そう、ラ・マさんだ。
「姉さん?」
何か心当たりがあった。どこかで聞いたはずだった。しかしすぐには出てこなかった。
「そう、姉さんだ。君を見出した張本人で占い師さ」
「ああ!」
合点がいった。そんなもの実在しないと自分が否定するための材料として使った。
そして、姉、ということでどことなく似ているような気がしてきた。
むしろ、ラ・マさんに心奪われていたようで自分で自分が許せなくなった。
「それは失礼ってやつじゃないかな?」
そうだバレてるんだった。
目を泳がせた僕は話題を変えようと何かないか? とあたりを見回し、一つ思いついたことがあった。
「今日はそれだけですか?」
「まあ、姉さんの紹介だけだ」
「名前を聞いてないんですけど」
「だそうだよ?」
「ロ・マだ。よろしく」
「よろしくおねがいします」
そうするとぞうを捉えなくなった視界から自分が追い出されたことを知り落胆した。
終わってしまった。
やはり自分は心奪われていたのだ。
そこで、今度は右頬で乾いた音が鳴った。
自分の情けなさが嫌になるのと同時に僕は疑問が浮かんだ。
まっすぐナビを見つめて、
「ナビはぼくのこころがわかるの?」
「ええ、ナビですから」
その言葉に、僕は今までの状況、葛藤、心境を反省した。
あーだこーだ悩んでいたことも、今朝、
「男かー」
と言ってしまう前の思考も全部全部バレていたのだ。
僕は今日もまた商店街を走り抜けた。人の目を気にせず自分の行動に恥ずかしさを覚えて。
しかし、ナビを追い抜くことは一度たりともできなかった。
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