第5話
再度のホワイトアウトの末に僕は自分の視界が高くなっていることを認識した。
そして、視界には茶色い何かがあり、暑い。
(それは、代謝が良くなったからだよ)
自分の体に目をやると指は太く、極めつけに体は体毛まみれだった。見た目はまるでクマのような状態だった。
「はあ」
(溜息ついたな)
(今から行きますから、邪魔しないでください)
そう、本番はここからだ。できる限りの全速力で場を離れ、できる限りの喘息で場に戻る必要がある。
泥棒は居なくなったわけではない。警察も未だ来ていない。力を得た自分が状況改善に何もしないわけにはいかない。
現場へ戻ると人は増えているだけでなく、相変わらず警察が来ていなかった。
泥棒の足元は盗んだものを蹴っ飛ばして威嚇しているためかひどく雑多なものが散乱していた。
そんな中で、人々の間を異形の様相で、
「すみません。すみません」
と言って進んでいると人は道を快く開けてくれた。
(多分、どっちも怖いだけだと思うけど)
(うるさいです)
相手からすれば突然現れたであろう、まるで怪物のような見た目の存在に泥棒は臆せども逃げず刃を向けてきた。
勇敢だと思った。しかし、よく考えれば犯罪者なのだから切羽詰まっているだけとも思える。
「なんだてめぇ。そんな格好しやがって」
「好きでこんな格好の訳じゃ」
「しゃ、喋りやがった」
「……」
「ち、近づいたら、この女を殺すからな」
人質の女性は必死で助けを求めるような目をこちらへ向けることはなかった。ただ、何もしないでほしそうにしていた。
しかし、自分はもう行動しないわけには行かないのだ。
もっと恐ろしい人間に大事なものを握られているような感覚だ。
だから、動いた
そして、驚いた。
自分でも自分の移動速度に驚いた。
「い、いない? どこ行きやがった?」
スーパーヒーローの様に高速移動し泥棒の背後へ回ることができた。
「軽い? いない! ウッ」
そして、難なくラ・マさんから与えられた課題である泥棒の捕獲に成功した。
(あの、どこへ行けば?)
(まあ、ちょっと待ってて)
何度目かのホワイトアウト。こればっかりは何度体験しても慣れないものだ。
「お疲れさん」
「本当に精神的に疲れました」
そして僕は謎の空間へと戻ってきた。
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