第78話
「度々済まない」
今日もまた、ラ・マさんに呼び出されていた。
今回はゆうのことではなく、珍しく何を話すのかをあらかじめ明かした状態で呼ばれたのだ。
「僕たちの偽物は何をしているんですか?」
ラ・マさんが僕とナビを呼び出した理由は僕たちの偽物のピンチを助けることだ。
ラ・マさんは偽物の力を利用しないことはもったいないと考えたらしい。
どれだけのことをしているから、そのような考え方になったのかはわからないが僕やナビ、ゆうと同じ様に働かされているとのことだった。
しかし、偽物が扱っていることは僕たちとは違うようだ。
「彼らに頼んでいるのは、かつて店を出禁にした者たちの相手だ」
「そんな人が?」
「ああ、理由は様々だが、俺ではどうにもできなくなるほど欲が肥大化した人間たちだ」
「欲が肥大化した人間の何が問題なんですか?」
「彼らは俺から物を買った人間だ。道具の使い方次第では君たちと同じような力を持っている」
「なるほど」
道理で偽物が力を受け取りながらも苦戦する相手が出てきたわけだ。
「でも、私たちが偽物を助ける理由はないと思うのですが?」
ナビの言うことも最もだろう。
何故僕らなのか理由がわからない。
「そうですよ。別に僕らでなくてもいいのでは?」
「相性の問題だ」
ラ・マさんはそう言った。続けて、
「どうしたって、この間ナビには話したゆうは変身していない。そうなれば相手は難しい。説得でどうにかなるものならば問題にはなっていない。そして、君たちの言う偽物は遠距離攻撃が可能だにも関わらず苦戦している」
「そうは言っても」
自分にとって納得できる理屈ではなかった。
遠くからの攻撃がどうにもならないから、僕たちがというのはわからない。
しかし、ラ・マさんがそこまでして僕たちが相手をしないといけないと考えているのかもしれない。
「確かに、俺でも不思議なことに根拠は弱い。だが、君たちならできると思う。それじゃあ、納得はできないよな」
「ナビ」
「はい?」
「行こう」
「いいんですか?」
「ああ、もし偽物が突破され問題が大きくなったら解決できたかもしれないと後悔するかもしれない」
「わかりました」
僕らは決意した。
例え理由は弱くても元々は世のため人のために何かができたらと行動してきたはずだ。
「いいんだね?」
「はい!」
2人同時に返事した。
そこで、重力の向きが変わったように今まで感じたことのない落下感、謎の物体に取り込まれる感覚で僕らはラ・マさんの店を後にした。
たどり着いた先では激しく火花を散らせて戦う多数対少数だった。
見覚えのある男女2人はコピーしたように見た目が同じ男の集団に劣勢を強いられていた。
「助けに来た!」
「行きます!」
僕らの声は聞こえていないのか2人は何の反応も見せなかった。
「マジカルマジカルマージカル」
未だ慣れることのない言葉を唱えて、光りに包まれながら戦場へと向かった。
「必要ない!」
自分も応戦しようとした時に偽物が最初に発した言葉だった。
「いや、そんなことはないと思うよ」
「いいや、大丈夫だ。ここはマヤと2人で何とかできる」
「ねぇ、そろそろ無理だって」
「大丈夫だよ」
僕は無理していた頃の自分を思い出した。
周りが見えていない。自分だけで問題に取り組み解決しようとしている自分を。
彼もやりたくて優美ちゃんをさらおうとした訳ではないのかもしれない。人の助けを求められなかっただけかもしれない。
「どうします?」
僕は困惑した様子のナビにうなずきかけ、一歩前に出た。
パンッ
「なにするんだよ!」
偽物は真っ赤になった左頬を抑えて怒鳴りつけてきた。
「お前、邪魔するんじゃないよ! 助けに来たなら指示を出すまでおとなしくしてろよ!」
「君は現状が見えていない!」
「え?」
「今、この状況を支えているのはマヤと読んでいた女の子1人の力だ。君は近距離で対応できない。だから仕方ないのかもしれないが、彼女のほうが無理だって言ってるんだ! 何か違ったことをしないと今の状態もそう長くは保たない」
言い切り、呆然と立っていた偽物を置いて、
「行こう。ナビ」
「は、はい!」
僕はまず1人ステッキで叩いた。しかし、感触はなく煙のように消えてしまった。
「マヤさん!」
「はい!」
「何か殴る以外にできることはありますか?」
「一応……ただ試したんですけど効果が……」
「やってみて下さい」
不安そうな表情のマヤさんはしかし、僕らが相手をしている間に数歩後退した。
「闇よ!」
マヤさんが叫ぶと地面から蠢く暗闇が足に、しかも、分身しているような出禁になった男の足だけに絡みつき動きを止めた。
「これしか、できません」
「十分です! おい! 偽物!」
ハッとした。
自分は何をしていたんだろう?
そんなことを考えて現実逃避して自分は関係ないと考えようとしていた。
駄目だ。駄目だ。
マヤを危険に晒すな!
彼らは、助けに来たのだ。
オレが今撃たないでどうする?
男どもは必死の抵抗をしているがそれでも動くことはできていない。
チャンスだ。
彼らは道を開け、オレが狙いやすいようにお膳立てしてくれた。
ここでやらないで誰がやる?
「いけぇー!」
どこに弾が入るのか携帯できる銃にも関わらず一気に男の数とぴったりの弾が撃ち出された。
そのうち、増えた方は煙のように消え、残る1人、本物の前で弾は静止した。
「やった」
初めてだった。
目の前の男に対してこれまでの必勝パターンを決められたことが、喜びだった。
思わずガッツポーズをしてしまってから、目の前の状況に身を奪われた。
男の前で銃弾が静止した時に嫌な予感が自分を襲った。
これまでも、自分の嫌な予感は何かの形で実現してきている。
今回もまたそれは、男が銃弾を跳ね返すことで現実となった。
「あぶなっ」
自分の方へと飛んできた弾を無謀にも腕で防ごうとした。
しかし、弾は僕にぶつかることはなかった。
代わりに、
「ナビ! ナビ!」
ナビは僕の目の前に飛び出し、僕の代わりに弾を受けたのだ。
何度呼びかけても返事はない。
「ナビ!」
「無理だよ」
そう言ったのは僕の偽物だった。
「何で分かる?」
「オレもマヤに当ててしまったことがあったから、済まない」
「いいや、仕方ない。ナビ、後は任せて」
僕はナビを少し遠くに寝かせた。
「マヤさん。他にできることは?」
「私はこれしかできません。他のページには色々書いてあったんですけど使えなくて」
「ページ?」
「これです」
マヤさんはステッキの取扱説明書と書かれた紙を取り出した。
差し出されたそれを僕は食い入るように見た。
これを僕にも渡しててくれればそう思ったが、そこは過ぎたことだ。仕方がない。
「すみません。時間を稼いでもらえますか?」
「ああ、なみさんのこともあるしわかった。行くぞ、マヤ!」
「うん」
2人がなんとかしてくれている間にこの取扱説明書を読まなくてはならない。
書いてあることがどれも本当なら、僕やナビ、マヤだけでなくアニメのキャラクターのアイテムのようなステッキを持っている者は何かしらの力が使えるようだ。
ステッキの形状によってどれも効果が違い、マヤさんはヤミを這わせることだった。
僕のは?
「……!」
見た瞬間に息を呑んだ。
相変わらず恥ずかしいことを言わないといけないようだがそんなこと考えている暇はない。
「お待たせしました」
「何かわかったか?」
「はい」
僕は書いてあったことを説明せずに返事だけで済ませて後ろへ下がってもらった。
数を本体1人に抑えてくれていた2人に感謝しつつ、
「光よ輝け! マジカルライト!」
僕は呪文を唱えた。
きっと、何言っているんだと誰もが思ったことだろう。
しかし、天から出禁の男へ向けて光が降り注いだ。
空間が優しい温かさに包まれると、男は体を少し浮かせた。と思った直後からゆっくりゆっくりとまぶたを下ろしていき、目をつぶった。
その時には男は床に横になり、いびきをかいて眠っていた。
「これで解決でしょう」
「ありがとう」
僕らは2人に笑顔を向けた。
感謝はしかし、ラ・マさんの言葉だった。
一瞬で男とともにラ・マさんの店へと戻ってきた。
不思議なことに僕の体は男の体に戻っているうえに、ナビも目を覚ましていた。
「もう一度言おう。ありがとう」
「これでよかったんですか?」
「ああ、この男からはようやく道具を奪うことができる」
「オレたちはこれからどうなるんですか?」
2人だけで解決できなかったことがペナルティになると考えているのであろう僕の偽物はそう言った。
ラ・マさんは、
「休暇を出そう」
と言った。
「今回で汎用性の高さが全てではないとわかった。君たちに渡したものを預かり改良するよ」
すると、僕たちの持っていた変身アイテムが宙に浮いた。
「それじゃあ、一時自由ですか?」
マヤさんはどこか嬉しそうだ。一体どれだけ続けてきたらそんな感情になるのか気になったが聞くことは控えた。
「ああ、そうだ」
そこで、会話は終わり僕とナビはいつもの商店街へと戻ってきた。
偽物たちや出禁の男の姿はない。
「僕らはまだ。知らないことが多くあるんだな」
「そうですね」
ラ・マさんや、ラ・マさんに反抗する者に対して無力感を抱いた僕らはゆっくりと家に帰った。
「ようこそ、ラ・マの店へ。ここにはあなたの望むものが全てあります」
今日もラ・マは人に物を売っている。
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