第71話

「来たね」

「どうしたんですか? ラ・マさん。もしかしてやっと気づきましたか?」

「済まないね。こっちも色々あってごたついてたんだ」

 僕は久しぶりにラ・マさんを見、声を聞いた。

 ラ・マさんが忙しいこともわかるようになった僕は今ではむやみやたらには話しかけないようにしている。

 ナビも両親も自分にとって頼れる存在へと変わった今ではそれでも不便はしていない。

「それにしても遅くないですか?」

 確かに、優美ちゃんのお父さんや、他にも多くの客が居るであろう店をやっているからといって急激に仕事が忙しくなるとは思えない。

 ましてや、表立って営業している店ではないのだから余計にヤミの剣のときのように何かを新しく作っていることも考えた。

 しかし、

「君が欲しかったのはこれだろう?」

 渡されたのは僕が今の元の姿に戻った時に没収されたステッキだけだった。

「そうですけど、これだけですか? いや、これ、うーん」

「違うのか?」

「違うというか、違くないというか」

「はっきりしないな」

「うーん。なんか、別のものになりませんかねぇ?」

「ならないよ」

 そんなにはっきり言わなくてもというほどに率直な言葉だった。

「じゃあ、これでいいです」

「じゃあってなんだ。じゃあって」

 ラ・マさんはそうして、僕の手を交わすように伸ばしていた手を引っ込めた。

「なんですか?」

「そんな奴には渡さない」

「そ、そんな、それが、欲しいんです。それを下さい」

「最初からそう言えばいいものを」

「ありがとうございます」

 僕はラ・マさんがぶつくさ言いつつも、ステッキを返してもらうことができた。

 一時はどうなることかと思ったが返してもらうことができれば問題ない。

「それと、ナビは君と一緒に活動することを選んだって話は聞いているか?」

「いえ、何も」

「話してないのか、いや、何、ナビは一人でも大丈夫だと思ったんだ」

「ああ、なるほど」

 自分は得心した。

 ナビにはステッキがあり、僕にはステッキがなかった。そんな状況を作っていたのは僕のナビゲーターの仕事が終わったことを表していたのかと、理解した。

「じゃあ、ナビは一緒に居てくれるんですね」

「そうだな。それに、もう外で待っている。早速で悪いが」

 そこで僕はラ・マさんの断りを遮った。

「いいですよ。行ってきます」

「ああ、そうしてくれ」

 僕は二度目の出入り口からの脱出でナビの待つ場所へと戻った。

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