第69話
今日は私だけ呼び出されました。
「済まないね。こんなことは始めてだし驚いただろう?」
「はい。説得するのに手間取ってしまいました」
「そうだよな。まあ、そんな中来てくれてありがとう」
「はい」
呼び出したのはラ・マ様です。
そう、ラ・マ様は今日私だけを呼び出しました。
「勇気抜きで話がしたい」
とのことでした。
「一体何の理由があれば私だけを呼ぶということになるのですか?」
「……君の役割が終わったからかな」
「どういう?」
「そのままの意味さ」
ラ・マ様はそう言って言葉を続けました。
「俺はもう彼、勇気には力を与えないつもりだ」
「そんな!」
「なに、別におかしなことではないだろう?」
「はい」
確かに、おかしなことではありません。
勇気さんがステッキがないと気づいてから一週間、時間は十分あったにもかかわらずラ・マ様からの返事はないようでした。
その事実から勇気さんが変身者として外されたと考えることは無理はありません。
そして、ラ・マ様は容赦なく言葉を続けます。
「いくつのペナルティを破り、破ろうとしたか? それだけでも記憶を奪い元の生活に戻ってもらうそういう選択肢も俺にはあったんだ。
「はい」
「だが、しなかった。能力の高さ、可能性の高さがずば抜けているらしいから雑に扱えなかった」
「なら」
「そう、なら、うまく利用したかったんだが、どうもな、うまくいかなかった」
「今までそんな思い出勇気さんと接していたんですね」
「そうさ、しかし、その必要がなくなった」
「なぜです?」
「わかってないのか? ナビ君だ。君は勇気との生活で勇気についていけていた。君なら勇気を超えられる!」
妙に熱くなっているラ・マ様の話はにわかには信じがたかったです。しかし、私には信じる、疑うという選択肢はありません。
「そこで提案だ。勇気のもとを離れて今後は一人で問題の解決にあたらないか?」
「それは、私が」
「そうだ。勇気のもと、今の家から出るということだ」
今まで考えもしなかった。この日常が続くと今日もまたいつものフランクな印象のラ・マ様だと思っていました。
「……ません」
「何?」
「できません」
「何故だ? 君だって勇気のもとに居ることは負担が大きかったはずだ。それなのに」
「私は勇気さんのナビゲーターです」
「なら、元の体、記憶を取り戻せると言ったら?」
その甘い言葉にも私は惑わされることはありません。
「いいえ、そんなことよりも勇気さんと一緒にいることのほうが大事です」
「そうか……」
「私は勇気さんと一緒に過ごしたことで知らないことを知り、見たことがないものを見ました。その体験は今までの何より美しかった」
「やっぱりか」
「す、すみません」
熱っぽくなっていたために、感情的になってしまったことを謝りました。
「いや、いいんだ。俺は君を説得できるなんて思っていなかった」
「それでは?」
「最初から君を勇気と引き剥がす気はなかった。渡しておいてくれ」
「いえ、それはラ・マ様から渡して下さい」
「そうか、君が言うならそうしよう。これからは君はただのナビゲーターじゃない。勇気の相棒として生きて欲しい。だから、俺のことはすきに呼ぶといいよ」
「私はナビで、ラ・マ様はラ・マ様ですよ」
「そうか……無理はするな」
「はい!」
自分の胸が締め付けられる思いと同時に体感覚が薄くなっていく。それなのに、胸の締め付けだけは強く強く自分を刺激している。
自意識で押さえつけていたわけではないが、今まで強く意識してこなかった感情が自分の中にもあることを感じた。
私は、ナビゲーター。勇気さんのナビゲーター。
「ただいま帰りました」
「おかえり」
今日も、明日もこれからも、私は頼られることを求めてこの人の近くに居たい。
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