第68話
母は強し。
そんな言葉がある。
僕は全く自分の母にも当てはまると思っている。
「おはよう」
「おはよう」
僕を起こさないように何かしらの家事を初めているのだ。
そんな母でも僕が何日かぶりに家に帰ってきた時に方を震わせていた光景は今でも僕の脳裏から離れない。
あんな、母の姿は今まで見たことがなかったからだ。
僕の前ではいつもニコニコしていた母だけに急に小さくなったような行動を見てしまって衝撃だった。
だが、その時に僕は母の認識を改めた。
ナビも言っていた。
「お母さんは人間ですよ」
ラ・マさんも人間らしいが、そんな、超越的存在ではない。
それでも日々僕と同じ様に感情を持って悩んで生きているのだ。
僕はそれを簡単に人前に出してしまうが、母は気を使っているのかそれを見せないだけ。
家事だって毎日毎日やるのは大変なはずだ。
それなのに、弱音をはいたところを見たことがなかった。
「そうなんだよね」
僕はナビの言葉、母の姿を見るまで、母に恐怖を抱いていた。
僕の世間からの目がどれだけ変わろうとわかりやすく自分に冷たい態度をとっていなかった。そのことがむしろ怖かった。
しかし、今思えばそれは、母のただの優しさだった。距離なんて自分が作り出したものだった。
結局は自分の認識が違っただけなのだ。
それなのに母を神様のように感じていた自分を恨めしく思った。
きっと、母にとって負担だっただろう。
今では前以上に家事の手伝いをしている。
当たり前のようにできる日はまだまだ遠いと思う。
それでも、いつか母を支えるための何かができたらいいなというのが自分の思いだ。
ナビや父、母、誰とも深い関わりの中で生きているのだから僕も力になりたい。
「できるといいですね」
「うん」
ここでも、ナビのほうが上手だ。
家事はどれも得意らしいナビに一つずつ教わりながらやっている。
まだ、手元もおぼつかないがやらないよりやったほうが身につくと信じている。
母に教えを請えないのは自分の羞恥心のせいだと自覚している。
母の存在が身近なものだと意識すると今度は何故か恥ずかしさを覚え始めた。
けど、
「ありがとう」
「何か言った?」
「ううん。いつもありがとうって」
「ふふ、どういたしまして」
僕はナビだけでなく、母の笑顔のためにもこれからは自分の体を大切に行動していきたいと思った。
「また、置き場所間違ってますよ?」
「え? 嘘!」
「本当です。これ私のですよ」
「あ、本当だ。ごめんって」
「ふふふ」
「どうしたの?」
「ううん。なんでもないの」
慣れないことはやはり難しいがそれでも僕は続けていく。
いずれ、力になれたなら。
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