第56話
オレは夢を見ているのだろうか?
今はそんな馬鹿げた思いも否定はできない。
空中に突然男が現れたからだ。
ありえない。何があってもありえない。
どんな科学も今の科学は人の瞬間移動などできないはずではないのか?
自分の知識不足なのかそれとも非現実的な現象を理解したくない自分のただの現実逃避なのかすら今の自分は判断できない。
その後も何も言葉を発せなかった。
余裕だと思っていた。
もし仮に本人が来ていたらどうしようもないが、女2人では男の行動を自分がしたと言っても嘘だと言われるだけだろうと予想していた。
だから、途中まではなんとかなっていた。
勝ったと思った瞬間さえあった。
しかし、それはただの幻想だったのだと今目の前で起きていることを見れば明らかだ。
女の内一人が変な物を取り出したときからだ。そこから流れが完全に変わってしまった。
「…………ぇ……」
このままでは自分が本当に嘘つきだ。嘘つきであることに最初から変わりはないが、それがバレてしまったことが問題だ。
「……ねぇ……」
どうすれば、どうすればいい? 自分は、
「……ねぇってば……!」
抑えられた呼ぶ声で自分の方を揺すっているのはオレのガールフレンドだ。
「ごめん……何?」
「やっと気づいた。もう、私でも今の状況はわかってきたよ。どうするの?」
「それは……」
考えていない。
それを考えていたのだ。
人知を超えた行動を取る人間が含まれる集団だ。他のやつもそんな力が使えてもおかしくないだろう。
それに、親父と接触があった可能性も考えると親父はこいつらと関わったからおかしくなったんじゃないか?
自分でも、自分の思考がグルングルンしているのがわかる。
答えが出ない。
「に、逃げよう」
「でも、どうやって?」
そう、わからない。手段。HOWだ。どうすればいい?
だが、きっと考えてもわからないことだ。
今の状況は分が悪すぎる。
ここは退いて作戦を練り直した後に強硬策を取ればいい。そのほうが今無理に嘘を押し通すよりも断然安全だ。
そこまで考えてから、オレは一歩右足を引いた。
「オレが左手を挙げたら逃げる合図だ」
「わかった」
今の自分が出せる結論はこれが最善だった。
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