第57話

 ラ・マさんの登場によって、自分が二戸部勇気ということを証明することができた。

 だが、気になることがある。

「では、お礼を」

「ちょっと待って下さい」

 僕は悟さんが次の話題へ移ろうとした言葉を遮った。

「その前に、僕の偽物をどうするか」

 僕がそこまで言った瞬間それを、そのタイミングを待っていたかのように男女は走り出した。

「あっ」

 誰もがそう声を上げ、しまった。と思った。

 僕ももっと早く、無駄話をしている間にできたことだと後悔した。

「じゃあ、悟。偽物は俺に任せればいいから、先に進めてくれ」

「ああ、久しぶりに話せて楽しかったよ」

「それはよかった。またな」

「ああ、また」

 ラ・マさんと悟さんがやり取りを終え、ラ・マさんは偽物めがけて飛んでいった。

 少し寂しさの残る会話を僕は見ていることしかできなかった。

 すぐに、次へと移るのかと思ったが、悟さんはラ・マさんが偽物たちをどこかへ、まるで本物の魔法のように消し去るまで見守っていた。

 ラ・マさんの姿が見えなくなったから、

「さあ、先に進めようか」

 と、僕たちの方へと向き直った。

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