第44話

 そんなことは起こらず、僕の空想の中だけに過ぎなかった。

 ラ・マさんの店を出た先はいつもの商店街。

 秋の夕暮れに暖かく包まれた午後、一日の終わりを告げる時。

「だぁぁぁ、よがっだぁ」

「そんなに嫌なんですか?」

「嫌って言うわけじゃないけど、もう、今はあんまり人と関わりたくないっていうか……」

 自分は元から、人とはあまり関わってこなかった。別に嫌いではないのだが、ずっと誰かといると疲れるというか、気を使うというか。

 それと、あーだこーだウンタラカンタラやっていたら一日が終わる。そんな、忙殺された生き方も辛い。

 できることならば、体がもとに戻ってから学校に行きたい。

 それでも、クマ人間についての質問攻めに合うだろうが、嘘を付くよりかは幾分マシだ。

「じゃあ、今なら見た目的に問題ありませんし、私の妹になってみますか?」

「え、え、え? えーと」

「ふふふ、冗談ですよ。もしかして、本気にしました?」

「え? あーいや、そ、そ、そんな訳ないじゃん!」

 半分以上本気にしていたが口には出さないことにした。

 これも、ナビにはバレているのだが。

「それじゃあ、帰りましょうか」

「いや、ちょっと待って、剣が折れているって、何か知らない?」

「ああ、それは、――クマ人間の時の剣のことですよ」

 後半は僕のよく知る快活なナビにしては珍しく小声になった。

 それにつられて僕も小声で、

「ヤミの剣のこと?」

 と尋ねた。

「そうです。あの剣折れちゃったんですけど、今回はそのことは不問にするって言ってましたよ。良かったですね」

「いや、良かったけど、あれ、折れてた?」

「はい。もう、中程から先はなかったですよ?」

 気づいていなかった。優美ちゃんをさらった黒服集団。そして、そのボス。戦い。どうにか、退けたものの変身中を見られただけでなく、石も壊されたが、剣は折られていないと思っていた。

 無我夢中だった。といえば聞こえはいいが周りが見えていなかったのだ。

「い、いつ?」

「私が公園についたときにはもう」

「……」

 ということは、優美ちゃんに聞けばわかるのではないか。いつ折れたのか。

 いや、この世には知ったほうがいいことと、そうでないことが存在するはず、これは後者だ。

「このことは、もう、終わりに」

「いえ、一応知っておきましょう。次の対策になるかもしれません」

「ですよね……」

 僕の罪は全てさらけ出さないといけないらしい。

「にしても、本当に学校に行かなくてよかった」

「そうですね。もう、歩きますか?」

「そうだね。いや、でも本当に良かった」

 一歩一歩はたしかに軽やかだがいつもよりも歩幅が狭いため感覚が狂う。

「何でそんなに嫌なんですか?」

「そりゃ、この見た目じゃん? 誰として行くのかわからんし」

「そうですか?」

「そうだよ」

「……私は意外と大丈夫ですけどね……」

「何か言った?」

「いえ、なにも」

 ナビは笑顔で頭を振った。

 いつも思うことだが、僕の心は聞こえるのに僕はナビの心も、ラ・マさんの心もわからないのだ。

 その差が少し悲しくもある。

「別に気にすることじゃないですよ」

「そうかな?」

「そうですよ」

「そうだね。で、それはいいんだけど」

「なんですか?」

「これ、何だと思う?」

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