第15話

 それから、そんな生活を続け3ヶ月が過ぎた。

 悪者の出現場所へ行くことにも慣れてきて今では生身での対応できる範囲の拡大が日々の喜びになっている。

 もちろん無理はしていない。

(気をつけるべきだ)

 と言われればそれに従うし、

「今回は大丈夫そうです」

 と言っていれば自力解決を目指している。

 はっきり言って判断基準が明確になってきた。それが自分の行動を楽にしていることは確かだった。

 それが理由か、ラ・マさんが心へ直接呼びかけてくることが最近は減っている。

 飽きてしまったのか、安全になってきているのかはわからない。ただ、自分は信頼されていると思っている。

 一度ナビにも相談したが、

「こんなに任せられるのは初めてかもな。と言ってましたよ」

 と言っていたことも自信につながっている。

 他にも、生身での活動が増えたからか父の目も前ほど厳しくなくなった。

 父はロ・マさんに正義感が強いと言われる僕が一番正義感が強い存在だと思っている。

 尊敬と恐怖の対象だった。

 他の人に見せる顔を自分には見せてくれなかったからだ。

 いつも、

「もっと頑張れ」

「まだまだだ」

「情けない」

 そんな言葉をかけられていた。

 自分はただうつむくことしかできなかった。

 しかし、最近では、

「無理するな」

 と言ってもらえたのだ。

 その時初めて父も人間なのだと認識できた。期待をかけられていたことを意識できた。

「うん!」

 と元気よく返事できたことも自分にとって嬉しかった。

 だから今日もいつもどおりの日々、見回りという名の散歩でナビやラ・マさんの力を借りずとも自力解決できるところを探していただけだった。

 とある公園を通りがった。ただ、それだけだった。

 そこに居たのは少女ただひとり。

 他に何が見えるでも、何があるでもない。

 それだけの空間に僕は目を奪われた。

 制服姿のナビを見た時やロ・マさんに始めて会ったときとは比べ物にならない。高尚な、小馬鹿にしていたはずの芸術作品に見入ってしまったような感覚。

 自分は決してロリコンじゃない。それにまだ自分自身が14歳だ。年齢の差は大きくないだろう。

 僕はその感覚を無視できなかった。

「こんにちは」

 勇気を持って話しかけたが返事はなかった。

 それから、普段学校での無口な自分が嘘のように饒舌に話していた。

 何も他愛ない内容だ。

 世に言う世間話というやつをただ独り言のようにつぶやいていたのだ。

 しかし、少女は逃げなかった。

 別に無理やり拘束したわけではない。逃げようと思えば逃げられたはずだ。

 僕はただベンチの空いているスペースに腰を下ろしただけだから。

 気づくと日が暮れていた。

 門限を守るため自分よりも幼い少女を置いていくことは気が引けたが、僕は立った。

「さようなら。またね」

 それだけ言ってその日は公園を後にした。

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