第27話

 突然、視界が歪んだ感覚があった。

 しかし、何があったのかは自分ではわからなかった。


 ラ・マさんの謎の道具により現実時間では一週間で自分の体は回復したらしかった。

「決して無理をするなよ。俺はその時にもペナルティを与える」

 と釘を差されてしまった。

「はい。わかりました。気をつけます」

 とは言ったものの、体の傷は目に見えて治ったとはいえ、心の傷に変化はなかった。

 病み上がりであるということを知っているであろう周囲の目も相変わらず変わらなかった。

 トレーニングはやめてしまったが、全く動かないのも体に悪いだろうと思い散歩にでかけた。

「活動範囲は、君の家と学校の間までだ。それ以上はもう広げない」

 ラ・マさんはラ・マさんなりに厳しく自分のためを思って言ってくれたのだろうが僕はどう現実と向き合えばいいかがわからなかった。

「そう……ですか……わかりました」

 と自分の言葉もどうにも歯切れの悪いものになってしまった。

 だからとりあえず外の空気を吸うということで散歩を始めた。

「私も行きます」

 ナビはそう言ってくれたが、

「ちょっと一人になる時間もほしいから」

 と言うと、

「わかりました」

 と納得してくれた。

 だから、今は自分ひとりだ。

 足の向くまま、気の向くまま自分の街を歩いた。

 人の目を無視し、ただ自然を感じた。

 思っていたよりも空気は僕を嫌っていなかったらしい。

 人に嫌われても自然は等しく自分を見ている。そう思えた。

 そのままフラフラと歩いていると、気づくと僕は少女と会っていた公園に来てしまっていた。

「あ」

 思わず声が漏れた。

「ああ……あああ」

 呼吸は浅くなるのが自分でも理解できた。

 その理由も自分の中では明快だった。

「待ってましたよ。今日なら、なんとなく、あなたが来る気がしていたんですよ!」

 そこに居たのは最悪の日に始めて出会ったあの男だった。


 どうやら自分は現実逃避をしようとしていたらしい。そして、とうとう、それは、かなわなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る