勧誘

「いや、部活はまだだけど? 」

 犬を抱きかかえた状態で話すことなのか?

「そう、とりあえずその犬を生徒会室で保護するから付いてきてくれる? 」

 そういって彼女は歩いていってしまうので俺は彼女を追って生徒会室にむかうことにした。

◆◇◆◇

「ほら、今日の放課後までこのケージの中に居てね♪ 」

 縁はそういって俺の腕の中にいる犬の頭を撫でてケージの扉を開ける。

「ほら、この中に入れてくれる」

 中に入れるように指示をしてくる。


「わかった、ほら♪ 」

 そういって抱きかかえた犬をケージの中に入れて彼女の方を見ると

「ありがとう。そういえば朱音君って何組? 場所分かる? 」

 そういって心配そうに俺を見つめてくる。

「確かに…。ここから2-Fまでどうやって行けばいいかな? 」

◆◇◆◇

 本鈴のチャイムが校舎内に響く。

「ヤバい、次の授業は加藤先生の英語じゃん! ヤバい怒られる(T-T)橘さんクラスの行き方教えてくれる? バレない様に走って行くから! 」

 そういって彼女を見ると彼女は本鈴が鳴ったにも関わらず冷静で慌てる様子もない。


「まあ落ち着いて、私に任してください」

 そういっているあいだにクラスに着いてしまった。

「どうしよう…」

 俺が教室の扉を開けるのに躊躇っていると

「授業中、失礼します。2-B所属の橘縁です。東雲君によろず部の活動を手伝ってもらい授業に遅れさせてしまったので説明をしに伺いました」

 そういって彼女はスタスタと教室に入っていってしまう。


 俺は呆気に取られて、その場で立ち尽くして居ると教室の扉から縁が顔をヒョコッと出して

「ほら、早くこっちに来て! 貴方の担任に説明するんだから! 」

 そういって手招きをして来るので俺も教室に入り彼女の隣に立つことにした。


「なるほど、そういう事があったのね…。分かった、今回だけはよろず部じゃない東雲君も許してあげる♪ 縁ちゃんも担当教科の先生に言っておいてあげるから自分のクラスに戻っていいわよ♪ 東雲君も席に着いて、授業再開するから♪ 」

 そう言われたので俺は隣にいる縁に

「ありがとう、助かった! 」

 そう伝えると縁は耳元で

「私の方こそありがとう♪ もし良ければ放課後、さっきの生徒会室に来てくれる? 」

 そういって教室から出ていってしまった。


 席に着いて筆記用具等をバックから取り出していると隣の真琴と前のリーシャから手紙が廻ってきた。

 手紙を受け取り内容を見ると

『彼女がいるのに他の女の子にも手を出すのはどうかなぁ~って思うんだけど…。真琴』

『ハレンチ! 色情魔! 浮気者! リーシャ』

 美鈴のせいで有らぬ誤解を受けてしまっているようだ…。


 俺は返事を書き、それぞれに渡す。内容はこんな感じで。

『彼女じゃない! 美鈴は俺の義理の妹です。それに縁さんとは偶然彼女を助けただけでまだ何もないから! 』真琴宛にはこんな感じで…。

『誤解だ!何もしてないし、お昼の子は俺の義理の妹だ! 』リーシャ宛にはこんな感じで…。


 俺の手紙を受け取って読んだ2人は明らかに疑いの目で俺を見つめてくる。

 授業中のあいだはそれ以上の追求は無かったが…。


「本当なの?」

「信じられないです」

 授業が終わって休憩時間に入ったら2人が俺に詰め寄ってきた。

「スゴいな朱音♪ モテモテじゃん! 」

 慶次は笑いながら俺と詰め寄ってきている2人の様子を見ている。


「おい慶次、笑ってないで誤解を解くのを手伝えよ! 」

 慶次に助けを求めると慶次は笑いながら

「しょ~がねぇ~な~」

 と言って真琴とリーシャの2人に美鈴のことを一緒に説明してもらう。


「誤解だったんだ…。ごめんね疑って」

 真琴は申し訳なさそうにしていてリーシャは

「すまない、どうやら誤解していたようだ」

 そういって頭をさげてきた。

「いや、誤解だって分かってもらえたならそれでいいんだよ♪ 謝らなくていいから」

 そういって2人を見ると2人とも笑ってくれた。


「それよりさ、さっきの女の子とはどういう関係なん? かなり綺麗だったけど」

 俺の脇を肘で小突きながら慶次がニタニタと笑っている。

「いや、何かよろず部の部長だって言ってたけど…? 名前は橘縁って言ってたな…」

 そういうと真琴とリーシャは少し驚いた顔をしていた。


 放課後になり慶次は水泳部に他の2人もそれぞれ部活に行ってしまったので俺は生徒会室に行くことにした。

◆◇◆◇

「失礼します。橘さんに用事があって来ました」

 そういって生徒会室の扉を開けるとそこには儚げな女性が立っていた。

「こんにちは♪ 貴方が縁ちゃんが言っていた朱音君ね? 話しは聞いているから少し座って待っててくれるかしら? 」

 そういって彼女はパイプ椅子を持ってきて自分の横に置いて、こっちを見て椅子をポンポン叩いている。


「失礼します」

 そういって彼女の隣に座って待っていると横からジーっと顔を見つめられる…。

 スゴく、スゴく居づらい…。何でこの人は人の顔をジーっと見つめてくるの?

 そんなことを思って座っていると扉が開き、俺を呼び出した少女、縁が顔を出した。


「あっ、来てくれたんだ♪ 朱音君! 」

 そういって手を握ろうとして彼女はその手を止めた。

「そういえば始業式で女性が苦手って言ってたね♪ ごめんごめん」

 悲しそうな顔でそんなことを言うなよ…。

「別に得意じゃないだけで苦手なわけじゃない」

 そういって彼女が差し出してきた手を握り握手をする。


 その様子を隣に座ってジーっと見ていた女性が嬉しそうな声で

「良かったね縁ちゃん♪ 信頼出来る部員が出来て♪ 」

 部員? はて? 何の話だ? 不思議そうに前に立っている縁を見つめると縁は少しバツの悪そうな顔をして

「そのことはこれから話そうと思ったのに何で生徒会長のお前が言うんだ! それにわざと私がここに遅れるような依頼をしてきて!本当に何がしたいんだい生徒会長殿は? 」


 隣に座っている女性にそう話しかけるけど…。

「生徒会長! えっ! 俺何も聞いてないけど! 」

 驚いて隣の女性を見ると彼女は手を振って

「うん♪ 私が生徒会長の海野うみのかえでよろしくね♪ それでここが旧生徒会室で現よろず部の部室になってるの♪ 」

 いきなりそんな説明をされても…。

 思考がついていかず呆然としていると


「あのね朱音君、君にお願いがあるんだ…」

 橘縁は俺の手をキュッと握って俺の顔を見つめながら

「よろず部に入部してくれないか? 」

 そういって俺を潤んだ瞳で見つめてきた。










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