みんなで登校

「おはよう朱音…。昨日はその…、すまなかった」

 そういって縁は頭を下げてきた。

 昨日、縁が夕飯の豚肉の生姜焼きを作っていたら見事に真っ黒コゲになり正直、人が食べられる物ではなかった…。

「いや、まぁ、大丈夫だよ? 次は俺も手伝うから! 」

 そういって朝食が置いてあるテーブルに座る。


「おはよう、おにぃ♪ おぉ~!何か今日は和食だね…」

 そういって美鈴はテーブルに置かれている料理(鮭の塩焼きと茄子の味噌汁それとご飯と漬物)を見て『美味しそう! 』と呟いて食器棚から自分のコップを出してそれに牛乳を注ぎテーブルに着く。

「それより、今日からリーシャを迎えに行くから少し早く家を出るからな」

 そういって鮭をほぐして熱々のご飯と一緒に食べる。


「彼女の家は分かるのかい? 」

 味噌汁を飲みながら縁が不思議そうに首をかしげて尋ねてきた。

「あぁ、それなら…」

 質問に答えようとすると縁の隣に座る美鈴がため息を吐きながら

「昨日のメールに書いてあったよね! そういえば文面に♥マークがあったような気がしたなぁ~、ねっ♪ おにぃ💢」


 あの一瞬でメールの文面を全部読んだのかよ…。

 誤魔化すのを諦めて頷くと縁は苦笑いをしながら

「そんな束縛義妹より私と付き合わないかい? 」

 そういって正面にいる俺の手を握ってくる。

「はぁ~っ、あのなぁ…、本気にするから冗談はやめろって…」

 俺は食べ終わった食器を片づけながら縁に注意をすると縁は小声で何かを呟いていた。


(まったく、朱音は本当に鈍感なんだから…)

◆◇◆◇

「ほら、リーシャを迎えに行くぞ!」

 そういって奥のリビングにいる2人に声をかけると2人は『ちょっと待って! 』そういってこちらに向かってやってきたのは

「ちょっ! おい美鈴! スカートの丈が短すぎるから! 」

 美鈴を見ると下着がギリギリ見えないのだが恥ずかしくなり視線をそらすと美鈴は何もおかしなことは無いと言わんばかりの反応で

「これぐらいは普通だよ普通…」

 その言ってる割りには顔を真っ赤にしているのだが…。


「あのなぁ、顔を真っ赤にして言う言葉か? それに美鈴のそんな姿は他の男に見せたくない(多分清楚なイメージの美鈴が痴女orビッチだって思われるのは絶対に嫌だ!)」

 そういうと美鈴は恥ずかしそうに顔を俯かせて頷き

「分かった…。ちょっと待ってて…」

 そういって奥に戻って行ってしまった…。


「あとどのくらい時間かかるんだよ…」

 ため息を吐いていると

「もうすぐだと思うよ♪ それと朱音、自転車に乗るかい? 」

 いつのまにか縁が俺の目の前に立っていた。


「お前さぁ~、気配消して近づくのマジでやめてくれ…、たまに怖いからさ」

 縁にそういうと縁は微笑んで

「ヤダ♪ 」

 断りやがった…。


「お待たせおにぃ…。どうかな? 大丈夫かな? 」

 そういって美鈴が奥からやって来たので

「あぁ、いつもと変わらずお前は可愛いよ♪ 安心しろ俺が保証してやるよ♪ 」

 そういって頭を撫でると美鈴は嬉しそうな顔でニコニコしている。


「美鈴君だけズルいぞ! 私には何も言わないのか? 」

 縁が頭をズイッと押し当ててきた。

「あぁ、えっと…、その…、今日も小さくて可愛いぞ!? 」

 縁は身長が148㎝と小さく、小動物の様に可愛い。


「うっ、うるさい! 身長の事なんて私は言ってないだろ! 牛乳を飲んでも全然伸びないんだよ! 胸は大きくなるのに! 」

 何のカミングアウトだよ! 聞いてるこっちが恥ずかしいだろ! 意識しちゃうだろお前の胸を!

 美鈴も靴を履き、準備が出来たので俺は縁の胸から視線をそらして玄関に向き直り

「それじゃあ行くぞ2人とも」


 そういって玄関を開けて先に外に行く。

「待つんだ朱音、さっ、さっき私の胸をジーッと見てただろ? やっぱり男性は胸がいいのか? 」

 縁がそういって胸を腕に押し当ててきた。

「やめなって! それより行くよ! 」

 そういってリーシャの家を目指して歩いていく。


(この朱音の鈍感! 好きな人以外にこんなことするかバカ! )

◆◇◆◇

 ピンポーン♪

『はい、ドナタですか? 』

 インターホンの向こう側からカタコトな日本語が聞こえる。

「リーシャさんの友人なのですが迎えに来ました」


 そういうとインターホンの向こう側から

『Damn it! お母さん、ちょっと待っててもらって! 』

 リーシャの声とドタバタする音が聞こえた…。

『えぇ~っとPlease wait! リーシャ、カラシ来てアワテテル? 』


 カラシ? なんだそれ? カラシって辛子か? 朝から何を食べてるんだ?

 しばらく待っていると

「ごっ、ゴメン朱音♪ おおお、お母さんが彼氏とか言ったけど気にするな! 言い間違えだ言い間違え! 」

 顔を真っ赤にして家から飛び出してきたけど…。


「そんなに辛子が辛かったのか? 朝から何を食べてんだ? 」

 そういうとリーシャは不思議そうに首をかしげて

「後ろの2人は誰なの? それと辛子って何? 」


 後ろの2人を見て不思議そうにしているので2人を紹介する。

「こっちはこのあいだ見たと思うけど義妹の美鈴、それでこの人はよろず部の部長で橘縁」

 そういって2人を紹介するとリーシャがより一層不思議そうな声で

「だから、何で彼女達がいるの? 2人きりじゃなかったの? 」

 と尋ねてくる。


「当たり前じゃないか、朱音を1人にしないよ、それに3人の方が何かと安全だろ? 」

 そういって縁がリーシャと美鈴を見て微笑み俺の腕に抱きついてくる。

「なっ、ななななにをしてるんだ! あっ、朱音早く学校に行くぞ! 」

 怒ったのか顔を真っ赤にしてリーシャは俺の手を握って引き寄せてくる。


「あっ、2人ともズルい! おにぃは私のなんです! 」

 そういって美鈴が後ろから追いかけてくる。

 両腕を抱き寄せられ、義妹からジト目で睨まれた状態で登校だなんて…。あぁ、周りからの視線が痛すぎる…。


「あっ、朱音じゃないか♪ 良かったな霊柩車呼ばなくて! 」

 岩清水さんと手を繋ぎながら慶次がこちらに気づきやってくる。

「おはよう慶次…。めっちゃ疲れた…」

 そういって助けを求める視線を慶次に送ると

「あれ? 朱音って女性のこと苦手じゃなかったっけ? 」

 といきなり言ってくるので


「あぁ? そうなんだけど3人のことはどうやら平気らしい…。どうしてだろうに? それにいきなりそんなことを聞いてきてどうしたんだ? 」

 不思議そうに首をかしげて慶次に尋ねると

「チッ、察しろよ助け船出してやったのに…。お前は本当に鈍感だな…。もう無理、だってお前が肯定しちゃったんだもん自分で何とかしろ♪ じゃあな! 」


 慶次はそういって岩清水さんと一緒に先に行ってしまう…。

 俺が肯定しちゃう……。なるほど! 俺が女性が苦手で抱きつかれるのは、いくら3人でも無理があるって答えれば良かったのか。しくじった…。

 それから俺は周り(特に男子生徒)から殺気のこもった視線で睨まれながら何とか無事に登校した。





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